技術の広場

2023.11.01
柔らかさが持続する糯米「やわ恋もち」の特性評価
あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター 分析加工技術室
名古屋市西区新福寺町2-1-1

1.はじめに

 糯米(もちごめ)は大福やおはぎ、あられなどのさまざまな和菓子に用いられています。炊飯米などに使われる粳米(うるちまい)に含まれるでんぷんは、グルコースが直鎖上に連なったアミロースと枝分かれしたアミロペクチンの混合物であるのに対し、糯米のでんぷんはアミロペクチンだけで構成されています(図1)。生菓子の製造過程で糯米に水を加えて加熱すると、でんぷんの結晶構造が崩れて糊化が進み、もっちりとした食感となります。しかしながら、できあがった製品を常温や冷蔵庫で保存すると、時間の経過とともにでんぷんが老化し、硬い食感に変化します。硬くなることを防ぐには、多量の糖を加えたり、β-アミラーゼなどのでんぷんを分解する酵素製剤を利用したりする必要があります。このように和菓子に添加する糖は甘さを付与するだけでなく、でんぷんの老化を抑制して良好な食感を維持するのに役立っています。その一方で、甘さを抑えたいというニーズもあることから、糖の使用量を減らしても柔らかい食感を維持できる米の育種や加工技術の開発が求められています。

 令和4年に愛知県で品種登録された糯米の新品種である「やわ恋もち」は、アミロペクチンの側鎖を伸長させる酵素の活性が欠損しており1)、通常の糯米と比べて側鎖が短く、硬くなりにくい特性を持っています。そこで今回は、やわ恋もちと広く流通している糯米品種であるヒヨクモチとの比較を行いました。

2.ラピッドビスコアナライザーによる特性の評価

 ラピッドビスコアナライザー(RVA)は餅粉に水を加えて撹拌しながら加熱と冷却を行ったときの粘度の変化を連続的に測定することができます。測定を開始してから温度が上昇するにつれて粘度が増加していきますが、やわ恋もちはヒヨクモチよりも低い温度で粘度の上昇が始まりました(図2)。これは、アミロペクチンが短鎖化しているために糊化温度が低くなっているためと考えられます。また、最高粘度を過ぎてからの最低粘度と測定終了時の最終粘度との差をセットバックと呼び、セットバックが大きいほど硬くなりやすいといわれています。やわ恋もちはヒヨクモチと比べてセットバックが小さく、ヒヨクモチよりも硬くなりにくいことを示唆していました。そこで、和菓子で使われる求肥を調製し、保存に伴う硬さの変化を測定しました。

3.求肥の保存に伴う物性の変化

 求肥は餅粉と砂糖、水からなるシンプルな配合の和菓子です。今回は厚さ12mmで調製し、でんぷんの老化を促進するために5℃で保存しました。物性の測定はレオメーター(RE2-33005C、(株)山電製)を用い、測定前に品温を20℃とした求肥に、直径8mmの円柱状のプランジャーを求肥の厚さの半分まで押し込んだときの最大荷重を求めました(図3)。その結果、1日保存後のやわ恋もちの最大荷重はヒヨクモチの1/2程度であり、非常に柔らかいことが確認できました(図4)。また、ヒヨクモチの3日保存後の最大荷重は1日保存後と比べて2倍、5日保存後は3.6倍であったのに対し、やわ恋もちは3日保存後で1.1倍、5日保存後で1.7倍であり、柔らかさが持続していることが確認できました。さらに、やわ恋もちは5日保存後であっても1日保存後のヒヨクモチよりも柔らかいことが確認できました。

4.おわりに

 アミロペクチンの側鎖が短いやわ恋もちは、ヒヨクモチと比べて低い温度で糊化が起こるとともに、やわ恋もちで作った求肥は柔らかく、保存に伴う硬さの増加が穏やかであることが確認できました。このようなやわ恋もちの特性は、もちもちした食感を長く維持できる利点がある一方、柔らかい特性が強く現れた場合に菓子の製造においてハンドリングや成型を困難にする可能性が考えられます。そのため、柔らかさの維持のために既存製品に使用する糯米の置き換えとして利用するだけでなく、やわ恋もちの特性を生かせる新たな商品の開発に期待が寄せられています。当センターでは、やわ恋もちの特性についてさらに評価を進め、適切な使用方法や新たな用途への利用の提案を進めていきます。

参考文献

 1)鈴木太郎,中村充,梅本貴之,池田彰弘,加藤恭宏:「日本育種学会」,21,28-34(2019)