あいちの注目企業

2023.10.02
新鮮でおいしいスイーツにこだわり地域の人気店に
patisserie Horyu
代表 沢田亮人
常滑市字乙田19-17

 常滑市の住宅地に立地し、ケーキ店とは思えぬお店の佇まい。
 お店の休日の取材2時間ほどの間に、営業日と間違えて店舗前の駐車場にやってくる車が何台も何台も見られた人気スイーツ店がpatisserie Horyu(パティスリー ホウリュウ)である。
 2022年4月に開店、営業時間前から行列ができ、今でも夕方の来店客は「今日はこの時間でもまだケーキがある。」と喜ばれる方もいるほど。

小学生から志したパティシエへの道

 オーナーシェフの沢田亮人氏は地元常滑市で育つ。小学生の頃から料理を作るのが好きで、「3分クッキングが愛読書だった」というほど。しかし皮膚が弱く、醤油などを使うと皮膚がかぶれてしまい続けられなくなったことが、お菓子作りを始めたきっかけとなる。
 「当時はパティシエという言葉もなく、ケーキは半田まで買いに行くものという感覚だった」とのこと。
 お菓子を作る業界へ行ってみたいという気持ちは中学に入っても変わらず、中学卒業後にケーキ屋で働きたいと考えていた。しかし、中学校の先生には「高校ぐらいは出ておけ」、渋々行った家の近所の高校の先生には「専門学校ぐらいは行っておけ」と言われ、お菓子の専門学校へ。「勧められるままに入学した学校でしたが、カリキュラムでフランスへ1年間留学するプランがあり、パティシエ修行としてその後の自分に大きく役立ちました」。
 卒業後は名古屋の超一流ホテルや個人店舗、小田原のケーキ店出店にも携わった。その後は、地元へ戻り大府市のJAあぐりタウンげんきの郷のカフェで勤務。
 「げんきの郷では地元のフルーツ使いのスイーツを勉強したくて携わるようになりました。スイーツ業界では夏はケーキが売れないのが常識で、その時期は前任のシェフも諦めていたようでした。しかし『夏休みでせっかくたくさんの人が来て下さるのなら、その人たちが暑くても食べたいと思うものをつくればいいのでは』と考え、みずみずしい新鮮な桃をJA山梨から仕入れ、パフェを考案したところ大ヒットとなりました。材料費も高く商品の値段も少し高くなったのですが、多くの方が喜んでくださる姿は『新鮮でおいしい果物を使ったスイーツ』を意識するきっかけになりました。その実績を買われたのでしょうか、当時食べログのビストロ1位になるような高級レストランにスカウトされ、パティシエとして5年間勤務しました。この頃には地元での独立を視野に入れ、自分のお店づくりの構想をし始めました」。

こだわりの店舗を地元・常滑で

 独立に向け出店地探しに乗り出す。
 「地元常滑での開店を目指したのですが、まず店舗探しに苦労しました。当初はテナントで探すもののあまり物件がなく、自前の店を持つしかないと、発展中の常滑地域で土地探しをしました。市民病院ができ住宅地として発展しつつある地域で、常滑市の都市計画プランを見ると平成27年度での人口増加がトップ、人口密度も比較的高く、高齢化率が10%未満と低いなど、当店のターゲットにぴったりでした。ただ、店舗に向いているとされる『幹線道路沿い』にはこだわりませんでした。通り沿いだけれど駐車場への出入りがしにくい場所になるなら、一本奥まっていて利用しやすい場所の方がよいのでは、また、今ではSNSなどでのPRが主力となってきていることも考えると、住宅地の中での出店も悪くないと考えるようになりました。店名は、父親が経営する昭和5年から続く『宝龍陶園』から『Horyu(宝龍)』の名前をもらおうと高校生の頃から決めていました。跡継ぎの立場である自分が異業種を選ぶことに後押しをしてくれた感謝と宝龍の名前を継ぎたいという気持ちからです」。
 店舗の構想を練る中、コロナによる影響を大きく受けた。
 「コロナの時期でレストランが休みになり、時間ができたことからじっくり考える時間ができました。住宅地内での立地を考えると、『明るい照明で大きなショーケースがある』という一般的なケーキ店のイメージではなく、周辺環境に馴染んだ建物でひっそりとやっているお店、というコンセプトにしようと考えました。店内は雰囲気を重視し、蛍光灯は使わずダウンライトなどで店内を薄暗くし、その中に少し明るい照明でショーケースが浮かび上がるような演出を考えました。また、電球ソケットなど店内の金属部分のほとんどをしんちゅう製としました。古くなっても錆びず味が出てくるのでお店の演出にもなります。このように、自分でコンセプトから図面・外観等を指定し、壁紙やタイル、電球の種類、トイレの表示板にまでこだわりの構想を作り上げました。しかし、ケーキ店実績のある工務店から『こんなケーキ屋は手掛けたことがない』と3社ほど断られ困っていたところ、『スイーツ店は初めてだが挑戦してみたい』という地元の工務店が手を上げてくれました」。
 しかし、折しもコロナ禍で、半導体がない、冷蔵庫がない、厨房機器もない、トイレや給湯器も不足、アメリカで作っている断熱材も足りない、ウッドショックで建材も入ってこないなど、機器や資材の調達には悩まされたが、構想から2年、ようやく店舗が完成した。

材料にこだわるフルーツスイーツで行列が

 オープンは2022年4月25日。多くのお客さんが押しかけ、GWを経て6月ごろまではオープン時には2~30人が並び午後2~3時には完売。閉店後すぐに仕込みをはじめ夜の12時まで1~2時間眠って夜中の2時からスイーツ作りという日々が続いたが、提供する商品には強いこだわりを持ち続けた。
 「ケーキは500円~、宮崎マンゴーのタルトは750円と近辺では比較的高い価格帯になりますが、とにかく自分のつくりたい、納得のいくスイーツケーキだけを作ろうと考えていました。12~3種類のケーキにしぼり、シュークリームやチーズケーキ、チョコケーキといった定番商品に加えて、季節の新鮮なフルーツを使った季節スイーツを並べました。また、ショーケースはあえてあまり大きなものにはしませんでした。大きなショーケースにすると、ケースを埋めるための商品もつくる必要がでてしまうからです。限定することで、こだわった商品だけに力を注ごうと。中でもスイーツは、フルーツを主役級にふんだんに使ったものにしたいと考えていました。主役級として使うとなると本当に美味しいフルーツを使う必要があります。シャインマスカットや桃、巨峰も県産地だけでなく、その品種や生産地区、その出来具合いにまでこだわっています。昨年使ったフルーツも今年の出来が悪ければ使わなかったこともあります。幸いにして『いいもの、美味しいものを食べてもらいたい』という思いを共有することができる、こだわりのフルーツだけを目利きしてくれる、家族経営だけど信頼ができる業者と知り合うことができました。『こういうスイーツを提供したいのでそれに合ったフルーツを探してほしい』とお願いすると一生懸命になって探してくれ、たいへん助かっています」。

 リピーターが非常に多いのも特徴で、「500円で1ポイント、20ポイントで500円割引」というポイントカードを作ったが、今年に入りすでに割引額が60万円を超えた。つまり1,200枚のポイントカードが回収されるほどのリピーター利用となっている。
 地域の人気店として特に「イベント日にはこの店を利用したい」と多くの方が来店し、母の日では7時間の営業時間でありながら、レジの来店客数は300人を超えていた。単純計算では420分で300件、つまり1.4分に1回レジを打っていたことになり、包装の時間を考えると全く休むことなく接客を続けたことになる。
 一方で、休日には遠方からの来店も。
 「店舗の立地上、SNSを利用して発信をしていくことを想定していましたが、来店されたお客様にたくさんインスタグラムなどに掲載していただき、近隣のリピーターの方々以外にもご来店頂く機会が増えました。今年のGWやお盆などは移動も比較的自由になり『地元のお客様は遠方にお出かけになるので、忙しくならないのではないか』と考えていましたが、SNSをご覧になった他県からのお客様が多数来店してくださりました。『ポイントカードをお作りしましょうか』とお尋ねすると『兵庫県からで頻繁に来られないので・・』などとおっしゃっていただくケースも多くありました」。
 繁盛店として評判になった当店も、昨年はスイーツ業界の季節変動の影響はあり、夏季の売上減少がみられた。そこで、今年集客対策として始めたのが夏季限定・店内限定のパフェ。併せて座席の予約も始めた。
 「店内の4テーブルのうちの2テーブルを予約席とすることにしました。2テーブル・1日3席の予約を始めたところ、朝から電話が鳴りっぱなしになり、中には『電話がつながらないので直接店に予約に来た』というお客さんもいらっしゃいました。1ヶ月分の130席ほどが2~3日で埋まりました。そのおかげで今年の7月は、売上のピークとなる12月を超えて過去最高の売上となりました」。

職人として繁盛店を進化させたい

 今後は、店舗数を増やし拡大することは目指さず、2つの側面からこの店舗を常に進化させていきたいと考えている。
 1つ目は、できるだけできたてのスイーツを提供できる体制づくり。
 「スイーツは新鮮で作りたてであるほど、香りや味がいいと考えています。例えば、誕生日ケーキは完全予約制で受け付けていますが、来店時間ギリギリに作りできるだけ新鮮でおいしいものを提供できるようにしている。また、クリスマスケーキのお問い合わせをいただくことも多いのですが1個1個丁寧につくると限界があり300個程度しか対応ができません。作り置きができるとされる焼き菓子も1回に作る数を50個ぐらいにとどめ、なるべく日を置かないようにしています。大量に作り冷凍保存するお店もあると聞きますが、味や風味は作りたてに比べると相当落ちてしまいます。焼き菓子は年末の帰省のおみやげとして利用される機会が多く、新鮮なものをお持ち帰りいただけるようクリスマス後の12月26~27日に集中して焼菓子作りをし、帰省の際にご利用いただけるようにしています。こうした手間ひまをかけてもつくりたての美味しいスイーツを提供できる体制や仲間づくりに力を入れ、より多くの方のご期待に応えられるようにしていきたいと考えています」。
 2つ目は、スイーツ作りの新しいチャレンジを続けること。
 「スイーツの種類を絞ることで1つ1つに時間をかけて提供でき、新しいものにもトライできる時間を作ることも可能になっています。期間限定のフォアグラのマカロンや他店では使っていない高価なナッツを使ったスイーツなどは香り高い商品に仕上がりましたし、バレンタイン用のチョコでも『名古屋へ行かないとないような、知多半島ではなかったようなチョコだ』とご好評もいただきました。今後も喜んでいただけるような商品づくりに挑戦したいと考えています。個人的にはハーブが好きで、ハーブを使ったスイーツの開発も手掛けていきたいと考えています」。

 こだわりの店舗でこだわりのスイーツを提供する沢田氏は今後をこう語る。
 「経営者ではなく職人を目指したい。美味しいスイーツを提供したいという軸をぶらさず今の店舗に磨きをかけていきたいと考えています」。