あいちの注目企業

2024.02.01
FA向け特注品の生産設備と現場対応力の強さで勝負
日南精機株式会社
代表取締役 安達祐二
小牧市小木24番地14

 日南精機株式会社は、FAに特化した特注品の生産設備や検査機器の製造メーカーである。装置としてのメカ部分とISOなどで求められるトレーサビリティ等を管理するソフト部分とを自社内で構築できる強みを持つ。売上の95~99%が上場企業で、それぞれの企業ごとの生産ライン・安全基準に対応させるため、設計、加工、組み立て、そして装置とPLC,PCソフトとの調整に至るまでその独自性に対応した特注設備となる。また、多品種・大ロット、仕様のマイナーチェンジなど息の長い対応も求められる他、装置が海外工場で使われることになれば時差対応も求められる。技術力・対応力に自信のない企業は手を出しづらい分野であるが、「日南精機なら何とかしてくれるのでは」という導入工場からの紹介でオーダーが入る。顧客から強い信頼を得られることで成り立つビジネスである。

特殊機の日南精機、ソフトウェアのエー・アイ計測システム

 日南精機は2011年5月、現社長の安達祐二氏が社長を務めていた、株式会社エー・アイ計測システムと叔父が経営する日南精機株式会社とが統合され、現在の体制となった。
 「1994年4月に立ち上げた株式会社エー・アイ計測システムは、大手メーカーとのお取引ができていたこともあり業績は順調でした。1990年代に入ると、ISO9000による品質管理の仕組みにより、検査機と検査データの保管を組み合せたトレーサビリティ体制や、『校正』という『計測機器のズレ(故障等による誤差)などの現況を把握・確認する』ことが多くの企業で求められるようになっていました。これらを効果的に実施するには『メカ』の部分と『データ管理』というソフトウェアの部分とをすりあわせていく必要があります。しかし当時は、すりあわせ部分がメカかソフトかどちらの領域なのかで揉めることが多くありました。お取引先様である大手メーカーでもこうした仕組みの導入が始まり、当社にもオファーをいただくことになりました。そんな時、偶然私の叔父が経営する日南精機もその会社との取引があることが分かり、メカ部を叔父がソフト部を私が担当することになりました。親族ということもあり連携はスムーズに進み、お取引先からは高い評価をいただくことになりました。これをきっかけに数多くの検査機の発注をいただくことになり、双方の会社は売上を伸ばすこととなりました」と当時を振り返る。
 「ともに売上が3億円程度になった頃、叔父から日南精機の後継の話があり、知名度も歴史もある日南精機株式会社として業務統合をしました。統合し初めてわかったのですが、赤字ではなかったものの、どんぶり勘定での会社運営がなされていました。受託加工部門内でも、ある加工では材料費だけで赤字になる価格設定があるかと思えば、単純な加工で大きな利益になるような価格設定もある。これではまともな原価計算もできないと、取引先に実情をお話し、赤字となるものは適正価格に、儲けすぎの加工は妥当な価格へと時間をかけながら交渉をしていきました。思えばこうしたことが、当社の価格設定に対する信頼に繋がっていったのかもしれません。こうしたどんぶり勘定の会社でしたが、特注品を加工する部門は叔父が手塩にかけた技術者揃いで『人材』という資産を叔父は残してくれていました」。

FA向け特注品は納品先と長い付き合いに

 売上が3億円の企業同士の統合であったが、その翌年には10億円の売上となった。
 「当時は、ソフトとハードを総合的に対応できる中小の専用機メーカーは少なく、特に当社の主力の一つである検査装置で一括対応できることから多くの受注をいただくことができました。当時、大手メーカーで生産するセンサーが世界的な規制強化の流れを受け大幅に増産されることになり、検査機は良品不良品を判別し、その記録をトレーサビエイティとして残すことが求められましたが、メカとソフトとが一つの会社でできることからお声がけいただきオーダーをいただくことができました。事業統合直後でこうした大企業への納品実績ができ、今に至るまでお取引を続けていただけていることは非常に大きな支えになっています」。

 その後、FAの特注設備を主力に業績を伸ばしていく。その要因は当社への信頼感であり、それを実現維持するために今日に至るまで緊張は絶えないとのこと。
 「FA設備では当初想定しなかったようなトラブルが起こります。これは多品種でロットも大きい大企業ではなおのことです。例えば、生産量を上げるためにタクトを早くするとその挙動が変わったりし、想定通りの動きが実現できないことも起こります。また製品のマイナーチェンジや大量生産前の小ロット品などラインに流れる製品や部品変更に対応することも必要で、長期間にわたり対応することも求められます。どこかで何か想定外の事象が発生するので、それをどう是正して次に活かしていくか、その対応が『この会社に任せておけば安心』という顧客の信用につながっていきます」。

「日南精機に相談すれば何とかしてくれるのでは」で販路拡大

 「自分たちのビジネスはニッチ市場です。大企業が参入するほど市場は大きくなく、長期的な変更や対応が必要となるため、直接口座を持ち現場同士で話ができなければ続きません。しかし小さな会社で営業力も弱い。そうなると、既存の取引先や担当者から紹介され連絡をいただくことが新規開拓のカギとなります。同じ機械を別の部署や工場から『あれがほしい』『日南精機に相談してくれれば何とかしてくれるのでは』といわれるようにと心がけており、対応の早さで信頼を勝ち取るようにしています」。
 設立当初から取引のある大手自動車部品メーカーの他、半導体メーカーや高分子化合物メーカー、電子部品メーカー、医療機器メーカーなど尾張地域の大企業へと取引を拡げる。
 「これらはほとんどがお取引先関係からのご紹介です。取引中の企業が廃業となり新たな発注先を探していたタイミングでご紹介いただいたケース、お取引先でお世話になった方が別会社へ移りそこでもご発注いただいたケースなど様々ですが、いずれも当社の仕事ぶりをご信頼いただきご紹介につながったようです。従来の自動車関連以外の業種では、支給部品を納品されていたメーカーから医療機器メーカーをご紹介いただきました。医療器具の滅菌袋部分の傷やホコリの付着がないかをセンシングするマシンを導入しており、今後も新たな分野へ拡げていきたいと考えています」。

特注品対応は人材育成が命綱

 全て特注品の当社にとって、対応できる人材の育成は命綱。
 「各部門の部長がカリキュラムをつくり、各部門にそれぞれ先生がいて入ってきた人を教える体制になっています。採用は「とにかくやる気のある人」を歓迎しています。常に前向きに取組んでもらうため、毎期その期の反省と来季の目標を一人ずつ話してもらう「経営計画発表会」を開催しています。壮大な200点満点ぐらいの目標を掲げる人もいれば、すぐ達成できそうな50点満点の目標の人もいます。200点満点ぐらいの目標の人はだいたい半期あたりでギブアップをしてくるのですが、そんな時も、1点ずつでもコツコツのばしていければいいからとアドバイスするようにしています。個人個人が問題意識を持って課題に取り組み、それを達成し乗り越えようとすることが大切だと考えています。例えば、ある課題を解決する糸口を探したいからビッグサイトのロボット展に参加したいと言われれば後押しをします。偉いもので、問題意識を持っていくと解決策を持って帰ってくるものです。また、セミナーへ参加する時も社員に『こういうセミナーへ行く』と知らせ、帰ってきたらとりまとめて講師となって説明し内容を共有するようにしています。また、社外での活動を支援することもあります。地域の劇団やお祭りに会社名義で寄付をしていいかと言われれば、会社でお金を出すから参加するようにと後押しします。社風が合わずに入って数ヶ月で辞める人もいますが、高い定着率になっていると思います」。
 将来に向けて、近く社長職を譲る予定とのこと。
 「自分の代は国産に拘った特注機の設計製作を事業分野としてきましたが、EV化という100年に1度の自動車産業の変革期でもあり、長年片腕となって支えてくれてきた新しい世代に託そうと考えています。新しい世代が変革期に新しいビジネスのやり方をとりいれていくことで時代と共に歩める会社となっていけばと考えます」と未来を託す安達社長である。