技術の広場

2024.05.01
消毒剤の評価方法と植物抽出成分を用いた消毒剤の開発について
あいち産業科学技術総合センター
愛知県豊田市八草町秋合1267-1

1.はじめに

 2019年に始まった新型コロナウィルス感染症により、抗菌・抗ウィルスに対する意識が高まっています。家庭、職場、公共施設等に日常的に消毒剤が設置され、消毒剤は日々の生活において使用される頻度が著しく増加しました。医薬品の規格基準である日本薬局方1)では、消毒を「対象物または対象物の表面等の局所的な部位に存在する微生物を減少させることを指す。」と定義しており、この様な効果のある消毒剤として、エタノール溶液、次亜塩素酸ナトリウム溶液などを挙げています。ここでは、消毒剤が微生物を減少させる効果の評価方法と、産業技術センターで取り組んでいる植物抽出成分を用いた消毒剤の開発について紹介します。

2.主な消毒剤と評価方法について

 2-1. 主な消毒剤

 表1に主な消毒剤と使用濃度例を示します。各々の消毒剤には適切な濃度があり、希釈した場合、有効性を評価することが重要です。

 2-2. 様々な濃度のエタノール溶液の評価

 日本薬局方には消毒剤の評価方法の一つとして「試験菌懸濁法」が記載されています。具体的には、実際に使用する濃度に調製した消毒剤1mLあたり、105~106CFU(コロニー形成単位、Colony Forming Unitの略)の試験菌を接種した後、規定時間(通例、5~15分間)静置して試験菌に消毒剤を作用させます。作用前後の試験菌の菌数を測定し、菌数の対数減少量を算出します。細菌では対数として3以上(例えば、1,000,000CFUの菌を作用させた場合、1,000CFU以下になること)の減少量が認められた場合、作用させた微生物を減少させる効果があると判定します。一般的に試験菌は、大腸菌(Escherichia coli NBRC3301)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)を使用します。

 表1に挙げた消毒剤のうち75vol%エタノール溶液と、それを希釈した40 vol%、20 vol%及び10 vol%エタノール溶液を大腸菌に対して評価した結果を表2に示します。エタノール濃度を20 vol%程度にまで希釈すると、大腸菌に対して消毒剤としての効果が無くなることがわかりました。エタノールの様に希釈や揮発により濃度が低くなる消毒剤は、適切な濃度で使用されているかを確認する必要があります。

3.植物抽出成分を用いた消毒剤の評価

 表1に記載のとおり、消毒用エタノールは80vol%前後で使用されていますが、濃度の高いエタノールは使用する人により手荒れなどを引き起こす場合があります。そこで、植物由来の抗菌成分を添加することにより、低エタノール濃度でも抗菌効果のある消毒剤の開発が可能になるのではないかと考えました。

 当センターでは、未利用バイオマス資源の利活用についての技術開発を行っており、トマトの葉・茎(トマト未利用部)には微生物の増殖を抑える成分が含まれることを確認しました2)。そこで、トマトの葉・茎由来のエタノール抽出成分を添加した10vol%エタノール溶液を試験菌懸濁法で評価したところ、大腸菌に対して3log以上の菌数の減少が認められました(表3)。トマトの葉・茎・花などには、抗菌性物質としてトマチンが含まれていることがわかっています3)。今回検討したトマトの葉・茎由来のエタノール抽出成分にも、トマチンが含まれていることが確認できました。今後は、黄色ブドウ球菌等、その他の細菌について評価することで、植物由来の抗菌成分を添加した、低エタノール濃度の消毒剤としての利用が期待できます。

4.おわりに

 当センターでは、消毒剤の評価および樹脂、繊維などの工業製品を対象としたJISなどの抗菌試験・カビ抵抗性試験についての相談や依頼試験を行っております。お気軽にお問い合わせ下さい。

参考文献

1) 厚生労働省「日本薬局方」ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066530.html

2) 伊藤雅子,森川 豊: あいち産業科学技術総合センター研究報告, 第5号, 40 (2016) 3) Awiyant, T., Sakata, K., Goto, M.,Tsuyumu, S., and Takikawa, Y.: Ann Phytopathol. Soc. Japan, 60, 421(1993)