技術の広場

2024.03.01
繊維製品の帯電性試験について
あいち産業科学技術総合センター 尾張繊維技術センター 素材開発室
一宮市大和町馬引字宮浦35

1.はじめに

 帯電性とは、静電気をためる性質のことをいいます。寒くなり、乾燥する季節になると、静電気によって衣服が体にまつわり付き、衣服の着脱時やドアノブに触れた際に「バチッ」と刺すような痛みを感じる不快な経験をしたことがある方も多いと思います。本稿では、繊維製品の帯電牲評価方法について紹介します。

2.静電気の発生1),2)

 一般的に静電気は、2つの物質を接触させた後に互いを引き離すとき、物質の間で電荷の移動→電荷の分離→電荷の緩和が起こることで発生すると考えられています。

2-1.電荷の移動

 電気的に中性な2つの異なる物質が接触すると、接触面において電荷の移動が起こります。その結果、一方の物質表面にプラスの電荷が、他方にマイナスの電荷が過剰になります(図1(a))。この状態では、接触している面に電気二重層(図1(b))があるだけで、2つの物質全体では電気的に中性であり、静電気現象は現れません。

2-2.電荷の分離と緩和

 次に機械的な作用によって2つの物質が分離されると、それぞれの電荷は双方の物質に残り、ここに一対の静電気が発生したことになります(図1(c))。
 発生した静電気はその物質の静電気特性によって漏れたり、放電したりして一部が失われます。そして、残った電荷が物質に蓄積され、静電気となります。

 このように静電気は、物質同士を摩擦しなくても、接触させてから分離するだけで発生すると考えられています。しかし、物質の表面に微小な凹凸があることにより、接触させても接触面積が限られます。そのため、わずかな静電気しか発生せず、摩擦することによって静電気が多く発生します。

3.帯電性試験3)

 帯電性試験は、布地の静電気に対する特性を評価する試験です。日本産業規格では、一般衣料向けとしてJIS L 1094「織物および編物の帯電性試験方法」において、A法(半減期測定法)、B法(摩擦帯電圧測定法) 、C法(摩擦帯電電荷量測定法)、D法(摩擦帯電減衰測定法)の4種類の試験方法が定められています。目的に応じて、これらのうちから適切な方法を選択します。本稿では、尾張繊維技術センターで実施しているA法とD法について紹介します。

3-1.A法(半減期測定法)

 測定は、半減期測定機(図2)により試料に印加電圧(-)10kVを30秒間印加して、帯電させた後、帯電圧が初期帯電圧の1/2に減衰するまでの時間(半減期)を測定します。
 A法は、織物及び編物の静電気減衰特性の評価に適しています。実用特性としては衣服のまつわり付き、ほこり付着の評価ができます。
 ここでは一例として、試料用添付白布を使用して、それらの半減期を測定した結果を示します。図3にナイロン添付白布の帯電圧減衰曲線を、また各種素材の添付白布の半減期を表1に示します。

表1 各種素材の半減期

添付白布の素材 半減期(秒)
羊毛 1.5
ポリエステル 11
ナイロン 29

 羊毛と比較してポリエステルやナイロンは、半減期が長いため、一度発生した静電気を溜めやすい素材と考えられます。

3-2.D法(摩擦帯電減衰測定法)

 測定は、摩擦帯電減衰測定機(図4)を使用して、試料を摩擦布(羊毛又は綿)によって摩擦して帯電させた後、発生した初期帯電圧(V)と半減期(秒)を測定します。D法は織物及び編物などの静電気の発生のしやすさ及び減衰特性を同時に評価できます。実用特性としては、衣服のまつわり付き、ほこり付着、放電障害などの評価ができます。
 ここでは一例として、試料用添付白布を使用して、それらの初期帯電圧と半減期を測定した結果を示します。各種素材の添付白布の初期帯電圧と半減期を表2に示します。

表2 各種素材の初期帯電圧(最大帯電圧)と半減期

添付白布の素材 摩擦布の種類 初期帯電圧(kV) 半減期(秒)
羊毛 羊毛 2.5 1.6
綿 5.6 1.4
ポリエステル 羊毛 -12 60以上
綿 -8.5 60以上

 これらの結果より、試料と摩擦布の組み合わせにより、初期帯電圧の大きさや、プラスに帯電するか、マイナスに帯電するかが異なります。同じ素材同士を摩擦させた場合、帯電圧は低いですが、異なる素材同士では帯電圧が高くなります。また、羊毛はプラスに帯電しますが、ポリエステルはマイナスに帯電することがわかります。一般にプラスに帯電しやすい素材とマイナスに帯電しやすい素材を組み合わせると静電気が発生しやすいため、衣服をコーディネートする際には、素材の組み合わせには注意が必要です。

4.おわりに

 尾張繊維技術センターでは、上記の試験の他にも繊維製品に関する様々な依頼試験(染色堅ろう度試験や接触冷感評価、風合い測定など)や技術相談を受け付けております。
 また、製品の品質管理、製品開発に役立てていただけるよう、地域の身近な試験機関として、耐候(光)性評価等のプラスチック製品向けの試験も実施しています。お気軽にお問い合わせください。

参考文献
1) 「帯電性の評価について」あいち産業科学技術総合センターニュース 2020年3月号
2) https://studyphys.com/static-electricity/
3) JIS L 1094「織物および編物の帯電性試験方法」(日本産業規格,2019)