技術の広場

2023.05.01
農産物や食品等の乾燥に適した低温用遠赤外線セラミックヒーターの開発
あいち産業科学技術総合センター 産業技術センター 瀬戸窯業試験場
瀬戸市南山口町537

1. はじめに

 農産物や食品等の乾燥処理は、品質を左右する重要な工程で、乾燥させる対象の種類や量、コスト等を考慮して適切な方法が選択されています。その中で、遠赤外線による乾燥は、空気を媒介することなく対象を直接加熱することから、迅速かつ効率的な乾燥が可能です。セラミックは、広い波長域にわたって赤外放射率が高く、したがって高温にすると多くの遠赤外線を放射するため、遠赤外線ヒーターとして一般的に用いられています。しかし、乾燥に用いるときには300℃程度の高温にする必要があるため、農産物等が必要以上にセラミックヒーターへ接近すると過剰に温度が上がり、色や食味、香り等の品質を損なう場合があります。そこで当試験場においては、高い放射率をもつカーボンナノチューブ(CNT)*1をセラミックヒーター表面に固定し、従来よりも低温で農産物や食品の乾燥が可能な遠赤外線セラミックヒーターを開発しました。

2. 低温用遠赤外線セラミックヒーターの作製および評価

 CNTは凝集性が高いため溶液中で均一に分散せず、そのままではセラミックヒーター表面に塗布することができません。そのため、本研究では親水性の高いセルロースナノファイバー(CNF)*2とCNTとを複合化させる技術を利用しました。CNT/CNF複合体は水溶液中で凝集することなく安定した分散状態を維持します(写真1)。このCNT/CNF複合体を、セラミック粉末を含むスラリー*3と混合し、既存のセラミックヒーターの表面に塗布することで、CNTを表面に担持した低温用遠赤外線セラミックヒーターとしました(写真2)。さらにその上からシリコーン樹脂を塗布することで、CNT/CNF複合体の剥落や水分による劣化への耐性を高めました。作製した低温用遠赤外線セラミックヒーターについて赤外線放射率を測定したところ、広い波長域にわたって放射率が高く、特に水分子がよく吸収する領域(3.2~12 µm)において既存のセラミックヒーターよりも大幅に放射率が向上していました(図1)。この低温用遠赤外線セラミックヒーターを用い、ヒーター温度を130℃として碾茶*4茶葉(水分29%)の乾燥を行ったところ、既存のセラミックヒーターと比較して茶葉の温度がより早く、より高い温度まで上昇させることができました(図2)。

3. おわりに

 CNTを表面に固定し、従来よりも放射率の高い低温用遠赤外線セラミックヒーターを開発しました。水分を多く含む農産物や食品等の乾燥に有用であると考えられ、引き続き実用化に向けてさらなる研究開発を行っています。産業技術センター瀬戸窯業試験場では、技術指導や依頼試験等によって企業の製品開発の支援に取り組んでいますので、お気軽にお問い合わせください。

付記
本研究は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターの事業「「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(異分野融合発展研究)」の支援を受けて実施しました。

用語解説
*1 カーボンナノチューブ: 炭素からなるシートが円筒状になった物質で、直径は数nm(nm=10-9m)。導電性、熱伝導性、高強度等の特徴をもつ。
*2 セルロースナノファイバー: 植物繊維を化学的処理や機械的処理によってnmサイズまで微細化したもの。
*3 スラリー: 泥状の混合物
*4 碾茶(てんちゃ): 茶の新芽を被覆(日光を遮ること)した状態で育てて摘採し、蒸した後に揉まずに乾燥させたもの。抹茶の原料となる。