あいちの注目企業

2022.06.01
歴史ある銘菓を守れ。多くの“見知らぬ”支援者に推された4代目社長
有限会社元祖鯱もなか本店
専務取締役 古田 憲司
名古屋市中区松原2-4-8

 全日本菓子協会の令和3年生産数量推定によると、2021年の和生菓子生産高は268,180t、10年前の302,262tの11.3%減となった。この地域でも名古屋の納屋橋まんじゅう、岐阜柳ヶ瀬の起き上がり最中など地域の銘菓が姿を消すケースも現れつつある。特に観光地の土産品を中心とする和菓子店では、コロナ禍は厳しい向かい風となった。

 売上の70%がKIOSKや観光拠点に依存するお土産品「鯱もなか」が主力商品の有限会社元祖鯱もなか本店も大きな岐路に立っていた。

大正10年大ヒットの「鯱もなか」、99年目で迎えた廃業の危機

 1921年(大正10年)に鯱もなかを創製した元祖鯱もなか本店は1907年(明治40年)に開業。御園座近くで観劇者の土産物を主体とした和菓子店で115年目を迎える老舗である。鯱もなかのヒット後は、暖簾分けによる独立や類似商品を発売する業者も多く、「元祖鯱もなか本店」の「元祖」や「本店」がそのヒット・乱立ぶりを伺わせる。戦後、大須観音近くの現地へ移転、KIOSKや観光拠点などへの卸売を主力としていた。

 3代目が京都の和洋菓子店での修行を経て洋菓子を始めたのは1980年代。
 3代目はかねがね子供には好きな道を歩ませたいと考えており、70歳を目前にして和菓子消費の減少や子供も跡を継ぐ素振りもなかったことから廃業に向け準備を始めていた。ただ百年以上続いたのれんをこのままなくしてしまっていいのかということには疑問もあり、跡継ぎはいないがお菓子や名前を残す方法は何かないか、引き継いでくれるところはないかなど様々な方法も検討した。
 廃業準備が進む2020年、コロナ禍が追い打ちをかけた。売上の70%を占める卸売部門が観光地の閉鎖等で大打撃。売上がゼロ近くとなる月もある中、土産物用に日に何千個と量産していた主力機械も売却、取引先にも廃業を伝え、セントレアや小牧空港での卸売も停止、従業員も退職し父母二人だけとなり完全にフェードアウトの方向へと舵を切っていた。

コロナ禍でのネット販売に見た事業継続の光

 その時、コロナ禍で観光地への出荷用に作った和菓子の在庫で困っている父母を見かねたのが娘で現在の4代目社長の古田花恵氏。デザインを学び美容系の仕事を経て専業主婦となっていた。少しでも在庫を減らせればと「Wakeari」(コロナ禍で大量に在庫を抱えた事業者と普段出会えないような名品や食品などを通常より安い価格で購入し「買って応援、食べて応援」できるサイト:現WakeAi)に出品。
 「当時、現社長は店舗業務には全く関わっていなかったのですが、目の前の山積みになった在庫を両親のためになんとかしなければと考えたようです。この応援サイトは非常に盛り上がっていましたので、ある程度は売れるのではと少し期待していましたが、実際はそれ以上でした。意外だったのは『今まで最中は苦手でしたが、こちらの最中はとても美味しくて好きです』などのコメント、当店のことを全くご存知ではないであろう遠方でのご購入いただけたことです。また、老舗に対し多くの応援メッセージもいただき『老舗』という歴史の価値を改めて感じました。土産物・贈答品が主力の量産品を提供できる和菓子店は戦後に創業したところが多く、当地域で戦前から銘菓を提供しているのは『青柳総本家』さんや『納屋橋饅頭 万松庵』さんなど数少ないのです。たくさんの方の『老舗、がんばれ』というメッセージに心を動かされ、ネット通販での可能性に賭け、自分たちで残していこうということになりました」と4代目のパートナーであり専務の古田憲司氏。
 とはいえ、頼みの綱の自社ECサイトは使いづらく見にくいもので月に1~2万程度の売上。まずは、これを使いやすいものにするため古田社長自らデザイナーの腕を活かしサイトの見直しをした。ECの受け皿ができたところで、訪問者を増やすためにSNSの活用に乗り出す。

4代目誕生、自社ECサイトでの回復の手応えを伝えた運命のネット記事

 方法としては、FACEBOOK、インスタグラム、ツイッターからの通販サイトへの誘導、またLINE登録を通じでのプッシュ型マーケティングの実施、という定石を確実に実施した。
 「当初に活躍したのはFACEBOOKです。2021年8月15日には『114年続くお菓子屋の“4代目店主”になりました』と報告するなど通販サイトまでの導線を確立するのに大きな効果を上げました。またインスタグラムは商品写真などのアップをしており、もはや店舗ではマストアイテムとなっています。40代程度までのユーザーが主ですが、若い方でも和菓子に興味を持っていただける機会にもなっています。ツイッターは単発で終わらないよう情報発信の継続性や当社に関係した情報発信をしてくださる方とのつながりを広げていけるように活用しています。双方向でのやり取りとなることも多く、最近では『ツイッターの中の人いますか』と“ご指名”で店舗を訪れてくださる方も多くなりました。とにかくいろいろなSNSの人気アカウントを研究して情報発信を続けました」と古田専務。
 退職したパートさんにも復帰してもらい、看板商品の鯱もなかは目に付きやすく年配の方にも手に取ってもらえるような品のある包装やパッケージへと変更するなど、足元からの立て直しも進めた。
 駅でのお土産品の購入者がネット通販の顧客となるよう、QRコードを通して手軽にHPや通販サイト、公式LINEへとつながる導線や、会社の顔が見えづらいネット通販のお客様に対しては、これまでの歴史を描いた漫画小冊子を同梱し読んでもらい、より顧客との結びつきが高まるLINE登録をしてもらうなどの導線づくりを一歩一歩着実に行った。
 こうした努力により、以前は月に1~2万円だった売上が、月に10万円近くなるなど通販の売上が目に見えて増え始めた。また、店頭用商品としてピスタチオ大福、ピスタチオのケーキ、さらに季節ごとに青梅大福、マロン大福、お芋クリーム大福など、付加価値の高い商品開発も増やすなど利益率の確保にも努めた。観光需要も少しずつ戻ってくる中、店舗を残す道への希望の光が見えてきた。

 2021年9月11日、通販で売上を回復した実績や女性が4代目を継いだことなどを『名古屋ネタ』で有名なライターがネット記事として掲載したところ、Yahooニュースにも取り上げられ数十万のページビューを記録、大きな反響を呼んだ。これがきっかけとなり、東海地区だけでなく全国でマスコミなどに取り上げられた。鯱もなかが創製されてからちょうど100年目に、再びその名は広く知られることになった。
 ネットやSNSを本格的に活用した取り組みはいくつもの「人のつながり」という名の奇跡をこの後生み出すことになる。

見知らぬ人との繋がりがもたらすいくつもの奇跡

 好転を始めた売上はコロナ以前近くまで回復、新たな店舗の姿として次のステージを目指す段階となった。
 「お店や商品を支え育ててくれた地域とともに新たな歩み方を目指したいと考え、鯱もなかを始めとしたお菓子を味わえるイートインスペースや、お店に来てゆったり過ごしてもらえる空間を併設した店舗へとリノベーションしたいと考えました。そこで必要資金の一部の300万円をクラウドファンドで募集することとなりました。2022年1月15日に募集開始、2日で達成率は20%を超え順調な滑り出しとなりました。新聞で紹介されたりFMで紹介されたり、中だるみの時期は『支援のお願いツイート』をリツイートしてもらうために縄跳びを2000回したり、60%を超えるまで寝ないなどの力技でなんとか2月15日に60%までこぎつけましたが募集終了は2月27日、残り約2週間です。2月19日に関西圏のTVで紹介がされる予定でしたのでこれに期待をかけていたところ、放映後に多くの支援をいただき70%まで到達しましたが、この後、広く知っていただける機会はもうありません。達成率は伸び悩み支援のお願いツイートをひたすら繰り返しました。万策尽き、あと3日となった2月24日救世主が現れました」。
 流れを変えたのは1通のリツイート。『SHACHIの出番だとおもうんだ』。
 名古屋発のアイドルグループ「TEAM SHACHI」のファンが、支援のお願いツイートに「SHACHI」つながりで反応、ファン仲間に応援を呼びかけた。
 「これをきっかけにどんどん数字が伸び、その日のうちに100%を達成、その後も応募は伸び最終的には360万円、120%の達成率となりました。残り3日の段階で残っていた武器はツイッターだけでしたが、そこから奇跡のような怒涛の展開でした。TEAM SHACHIさんやそのファンの方々へなんとか感謝の気持ちを表したいと、2022年4月に東急ハンズのGATESHOPで開催されたTEAM SHACHI 10周年イベントショップでは『TEAMSHACHI1特別バージョン「手作りTEAM鯱もなか マジ感謝版」』を販売しました。パッケージをメンバーの写真にした限定版で、納品するごとに売れ続け予定の350個は完売となりました」。

 この5月には遠い北の大地、北海道で思わぬ話題が沸騰した。
 「ゴールデンウィーク中に北海道の方の面白いツイートを見つけたのが始まりでした。ご当地のお腹いっぱいになるお弁当屋さんのことを勝手に面白おかしく作詞したツイートでした。するとそれに曲をつけて歌う人、アカペラに演奏を付ける人、振り付けする人などが次々ツイートを繰り返し、遠い地ではあるけれど何か楽しそうなことをしているなとフォローしてずっと見ていました。また、話題にのぼることは同じ商売をする人間として羨ましくもありました。すると連休明け思いがけないことが起こりました。何と鯱もなかを題材にした作詞が突然ツイートされ、曲や歌ができ、北海道発のアイドルが振り付けをし、2番が作られ、プロモーションビデオが作られ、ついには逆輸入で名古屋の方がパンクロックにするなどの展開が生まれました。社名の“鯱もなか”や“明治創業”という単語に『引き』があったのでしょうか、食べたこともない和菓子なのにそれを題材に皆さんが話題にしていただきました。100年程度の歴史があるとはいえ、市井の和菓子店が遠い地で熱く話題にしていただけるなど考えたこともない奇跡の展開でした。お陰でフォロワーもどんどん増え、この展開についてのお礼のツイートと同時期に和菓子に関する熱いツイート文を掲載したこともあって、つい先ごろ20,000人を超えるまでになりました」。

 これはSNSを通じた見知らぬ人との繋がり、思わぬツイート上の出会いが起こした奇跡でもあるが、時間を惜しまず情報発信を続けた新しいプロモーション努力の成果でもある。

銘菓を受け継ぐための課題を一つ一つ解決し、期待に応えたい

 「当社が食品製造業という視点で考えると、店舗や通販で販売する大福・プリン・アップルパイなどの季節商品もある多品種少量生産とKIOSKや空港など年中無休体制で販売する卸部門の大量生産との2種類のラインが混在する生産体制となります。多品種の材料仕入管理と大量生産品の在庫管理を同時に行い、またそれに伴う資金繰りなど頭を悩ませることもあります。幸い卸部門の生産については先代が自身の経験値で人の手配や生産計画などを対応してくれていますので問題なく続けられていますが、こうしたことを任せられる人を育成することも企業の継続性の観点からは必要になってくると考えています。売上の50%が卸部門、25%が店舗、25%がネットという構成でこの割合の変動と各部門の利益率や材料・生産品の在庫金額とのバランスを取りながら安定した経営をしていくことで、鯱もなかを気にかけていただいている方々に長く応えていかなければならないと思っています」。
 卸部門の課題の一つである利益率の向上のため新商品づくりも始めた。 4月にジェイアール名古屋タカシマヤ限定で「鯱も、一息。」を新発売。モナカにフィナンシェ生地とキャラメルコーティングのアーモンドをつめた洋菓子スタイル。

 「和菓子は素材の味を生かしおいしくすることを考えますが、洋菓子は素材を複合的に混ぜておいしくします。洋菓子店での修行経験を持つ先代の力を借りながら双方の良さを混ぜ、和洋の区別なく見た目にもおいしいお菓子作りを目指し、地元はもちろん他の地域の方々にも地域や世代を超えて愛される店にしていきたいと考えています」。
 クラウドファンドで支援を呼びかけたリノベーションの完成披露は11月を予定。多くの人に支えられ銘菓は次の世代へと受け継がれた。