技術の広場

2023.01.04
減圧恒温恒湿試験について
あいち産業科学技術総合センター 産業技術センター 自動車・機械技術室
愛知県刈谷市恩田町一丁目157番地1

1.はじめに

 航空機は、空気の密度(抵抗)が低い上空を飛行します。表1は、地表からのおおよその高度と気圧の目安です。旅客機が飛行する高度は約 1万m であり、気圧は地表の1/4程度になります。このため、航空機に搭載する機器は、安全性確保のため、気圧の低い環境で機能に問題がないかを確認する必要があります。また、電子機器や産業機械、家電製品などにおいても、空輸時の貨物室や標高が高い高山都市においては、地表面より気圧が低くなるため、このような減圧環境下における機能の評価が求められています。そこで、本報では、気圧・温度・湿度の 3 条件を制御可能な減圧恒温恒湿器について紹介します。

2.減圧恒温恒湿器について

 図1が当センターの保有する減圧恒温恒湿器の外観と槽内、表2が機器の仕様です。真空ポンプ、加熱器・冷凍機、加湿ヒーターが複合的に運転されることにより、槽内のテストエリアの環境を、設定した気圧・温度・湿度に制御しています。複雑な試験条件や繰り返し条件については、事前にプログラムを設定し、長期間の試験を実施することが可能です。

(a)外観                (b)槽内のテストエリア
図1 減圧恒温恒湿器

 減圧恒温恒湿器の側面には、槽内と外部を繋げるための貫通孔があります。槽内に試料として電子機器を設置した場合、電源ケーブルや通信・制御ケーブルを外部から配線することができます。また、タイムシグナル機能により、プログラム運転中に特定の条件に達した時に外部機器を制御(電源の供給や遮断、ブザーなど)することが可能です。なお、貫通孔を使用する際には、気圧・温度・湿度が漏洩しないように、ケーブルを通した後の隙間を密封する必要があります。

3.試料に及ぼす影響

 減圧恒温恒湿試験の例を図2に示します。槽内のテストエリアに、試料としてゴム風船が置いてあります。大気圧状態では直径15cm程度ですが、槽内を50kPaに減圧すると、風船内の圧力が周囲の気圧(50kPa)よりも高くなります。そのため、風船の内側から外側へ押す力により、風船が20cm程度に膨らみます。

図2 減圧恒温恒湿試験の例

 

電子機器や産業機械、家電製品など、様々な試料を対象に、試験槽内で減圧、高温・低温、多湿・乾燥の環境を再現して、空気密度の低下や温湿度が試料に及ぼす影響を評価することができます。下記に、品質不良の要因や事例を示します。
○圧力差による試料の膨張
・ガスケット(シール材)で封止した容器からのガス漏れ、液体の漏れ
・電池や液晶モニタ、コンデンサの破損
・容器や梱包箱、梱包袋の破裂や破損
○空気の対流及び熱伝導の低下による放熱効率の悪化
・CPUの冷却不良、プリント基板の局部過熱
・冷却ファンの能力低下による電子機器の温度上昇
○絶縁性能の低下
・放電による電子機器の異常や故障、発火
・高圧トランスの発煙
○その他
・低密度物質の物理的性質、化学的性質の変化
・可塑剤の気化
・潤滑剤の蒸発

4.おわりに

 本報では、高高度の環境を再現できる減圧恒温恒湿試験について紹介しました。あいち産業科学技術総合センター産業技術センターでは、温度の急激な変化によって熱負荷を与える熱衝撃試験、太陽光・温度・湿度・降雨等の屋外条件を人工的に再現する耐候性試験、モーターや大型機器から伝わる機械的振動や製品の輸送環境を模擬した振動試験など、多様な環境試験を行っております。新製品の開発や品質管理等に是非ご活用ください。

参考文献
1)エスペック㈱ セミナー資料「高度・温度・湿度の複合環境信頼性試験(CERT)について」