技術の広場

2022.05.02
FSW(摩擦攪拌接合)とPMS(隆起微細構造)処理によるアルミニウムとCFRTP(プラスチック)の接合
あいち産業科学技術総合センター
愛知県豊田市八草町秋合1267-1

1.はじめに

「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅢ期」において、大学・企業と共同で「革新的マルチマテリアル接合による軽量・高性能モビリティの実現」をテーマとして、接合技術の開発を進めてきました(2019~2021年度)。本プロジェクトにおいて、アルミニウム(Al)とCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)の接合技術について研究を行いましたので、ここで紹介します。

2.背景

本プロジェクトの目的の一つは、自動車など次世代モビリティの車両軽量化です。現在、自動車には、多くの鉄鋼材料が使用されています。鉄鋼材料は比重が大きいため、その一部をアルミニウムやプラスチック複合材料の一種であるCFRTPなどの比重の小さい材料に変更すれば、軽量化することができ、燃費の向上・CO2排出削減につながります。表1に各材料の比重を示します。近年、自動車の電動化が加速していますが、電気自動車は電池などの電装系の重量が大きいため、車体などの軽量化への要求はますます高くなっています。従って、軽量化実現のために、様々な材料を適材適所で活用する革新的なマルチマテリアル接合(異種材料接合)が必要とされています。マルチマテリアル接合の中でも、金属とプラスチックの接合技術の開発は、特に重要性が高くなっています。

3.AlとCFRTPの接合方法

本プロジェクトでは、隆起微細構造(PMS:Prominent Micro Structure)処理と摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)を併用した接合技術の開発を進めてきました。

PMS処理とは、金属粉末を金属基材上に乗せ、レーザ照射する処理のことです。レーザ照射すると、乗せた金属粉末が溶けて、多数の穴がある凸凹した形になり、金属基材と凝着します(隆起微細構造)。この隆起微細構造の多孔質層に、プラスチックを浸透・固化させると、プラスチックと金属が3次元的に絡み合う相互浸透層が形成できます。

また、FSWは、回転する工具(ツール)の先端を金属に押し当て発生する摩擦熱で金属を軟化させ接合する方法です。入熱量の大きい溶接と比べて、熱ひずみが小さく、作業環境がクリーンなどの特徴を持っており、自動車業界だけでなく、鉄道、船舶等輸送機器、土木・建築構造物などの様々な産業分野で幅広く実用化されています。 今回、PMS処理とFSWを用いて、AlとCFRTPの重ね接合を試みました。PMS処理は、接合面のAl側(FSWツールの直下位置)に1.2mm幅で行いました。図1にPMS部の外観を示します。また、FSWは、Al側からツールを挿入し、Alのみを攪拌する方法で接合を行いました。図2に接合の概略図を示します。

4.AlとCFRTPの接合結果

まず、PMS処理なしのAlとCFRTPの接合を試みましたが、一旦接合するものの、しばらく放置すると剥離が発生しました。 一方、PMS処理を行ったAlとCFRTPでは剥離は発生せず、これを試験片形状(幅20mm)に加工した後、引張せん断試験を行ったところ、最大荷重約700N(せん断強度約30MPa)という結果が得られました。図3に接合品と接合部の断面を示します。拡大断面写真から、PMSの多孔質層の中にCFRTPの繊維が入り込んでおり、AlとCFRTPがPMSを介して接合していることがわかります。

5.おわりに

本報では、FSWとPMS処理を用いたAlとCFRTPの接合例について紹介しました。 産業技術センターでは、FSW装置の機器貸付を行っています。また、強度試験・硬さ試験などの各種依頼試験や技術相談も受け付けております。ご興味のある方は、お気軽にお問合せ下さい。