あいちの注目企業

2023.05.01
びわを通じて地域を活性化
株式会社みなみちたフルーツ
代表取締役社長 林 浩子
知多郡南知多町内海亥新田99-1

 今回は「びわ茶専門店びわカフェ」を運営する「株式会社みなみちたフルーツ」が取材対象です。
 補助金とクラウドファンディングを活用して地域活性化を推し進めるソーシャルビジネスモデルを女性一人でも推し進めています。もちろん、家族の応援や商工会、地元金融機関の支援があります。今回は一人から始めた地域おこしの「あいちの注目企業」です。
 株式会社みなみちたフルーツは、愛知県知多郡南知多町内海にあります。名鉄知多新線の終着「内海」駅から海の方に向かって徒歩15分程の住宅街にあります。この場所は「びわ茶専門店びわカフェ」(以下:びわカフェ)でもあり、株式会社みなみちたフルーツ代表取締役 林浩子氏(以下 林社長)がカフェの店長を務めています。

会社の沿革

 2017年8月1日に法人化し、株式会社みなみちたフルーツが本格的に動き始めました。その勢いで2017年10月1日に「輝く女性 ソーシャルビジネスプランコンテスト」に応募して、見事『愛知県知事賞』に輝きました。

※「輝く女性 ソーシャルビジネスプランコンテスト」とは
 愛知県では「あいち・ウーマノミクス推進事業」の一環として、介護・福祉、子育て、地域コミュニティの形成等、身近な社会問題の解決を促すとともに、地域における新たな起業や雇用の創出等が期待できるソーシャルビジネス分野における女性の起業を促進するために2016年~2018年に開催しました。
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/sangyo-seisaku/310214.html

◆どこに注目 地域の活性化となる農産物

 地域コミュニティの形成等、身近な社会的課題の解決をビジネスの手法を用いて「農産物=びわ」を柱として、継続的な事業活動として進める取組です。
 半田市で生まれ育った林社長は教師からスタートしました。卸売市場のある半田市で、朝市や魚屋で買い、食卓に上がる魚介類や野菜は美味しいと自負していました。新任で、南知多町の離島である日間賀島に赴任しました。日間賀島で獲れたての魚介類を食べたらこれまでの比ではなく、今まで苦手だったはずの「このわた」や「うに」の美味しさに驚き、「うに」の見たこともないきれいな赤色に驚愕しました。これまでうには黄色と刷り込まれていたからです。海産物が美味しい理由は明快です。海産物を育てる地質や海流です。そして、獲れたてだからです。
 縁あって南知多町内海に嫁ぎ、子育てに専念するために教師を辞めて家庭に入った林社長ですが、南知多愛は増すばかりです。そしてどうしたら美味しいものを内海で食べ続けることができるのか考えたとき、その美味しいものの一つが「びわ」でした。実は、30年もこの地に住んでいてびわ畑があることさえ知りませんでした。びわは南知多町の地質に合った農産物でもあります。
 江戸末期に「唐びわ」が南知多町内海利屋(ウツミトギヤ)で繁殖が試みられ、その後明治初期に品種改良されました。昭和初期には山を開墾してびわを栽培しています。しかし、昭和34年伊勢湾台風で大被害を受けて生産量が激減しました。
 愛知県のびわ出荷数は全国16位(40年前は全国10位)です。愛知県内では田原町、新城市、安城市、三好町、東郷町、稲沢市が産地でしたが、南知多町のびわもそれに負けていません。
 全国上位のびわ産地は長崎県、鹿児島県、愛媛県、千葉県です。千葉県には「道の駅とみうら枇杷倶楽部」があり、林社長は直ぐに見学へ行きました。びわを通じて地域おこしへの情熱が見学先に通じたのか、あんたには無理(個人で取り組める規模ではない)と言われつつも、工場も含め、包み隠さず丁寧に案内されました。また、隣地でびわを販売する地元有力者の目にも留まりました。その方のレクサスに乗って広大なびわ畑を案内されました。栽培方法や品種、経営の話まで、初対面にもかかわらず伝授されました。林社長は帰りに東京の「千疋屋」で市場価格を知り、「タカノフルーツパーラー」で『枇杷のパフェ』を味わい、びわへの意欲が大きくなりました。

◆どこに注目 びわ石鹸

 日間賀島で廃棄される黒ナマコを見てきた林社長は、韓国では黒ナマコの乾燥粉末を使ったコスメ(化粧品)が人気と耳にしたことがありもったいないと考えていました。そうしたら、南知多町観光協会が黒ナマコ石鹸、びわの葉から抽出したエキスを使ったびわ石鹸とびわ茶を開発し、販売を始めました。それがきっかけで南知多町がびわの産地と初めて知った林社長は、開発された石鹸の素晴らしさと、びわの産地と知らなかったことの両方に衝撃を受けました。
 愛知県の補助金を活用したその製造販売事業は、観光協会を通して地元宿泊施設や観光物産販売所で販売しました。しかし、2年後にこの事業が打ち切られることになり、それを知った林社長はこの素晴らしい石鹸が無くなるのはもったいない、自分の肌に合った石鹸が無くなるのは困ると観光協会に許可を得て「びわ石鹸事業」を引き継ぐことになりました。

◆どこに注目 クラウドファンディング

 びわ茶は林社長のこだわりで独自開発しました。「輝く女性ソーシャルビジネスプランコンテスト」で1位を獲得しましたが事業資金はありません。最初の2年間は無店舗販売です。マルシェに出店したり、知人に勧めたり、近隣の観光物産販売所などに説明しながらの販売です。また、リピーターからの口コミ販売です。
 県外にも縁を作って出かけるなど精力的に発信と販売を続けると、売り上げは伸び続け、起業2年目に作業と物販の拠点の必要性に迫られました。そんな時、タイミングよく地元金融機関にクラウドファンディングの提案を受けました。地域活性化に特化したクラウドファンディングで、地元の皆さんの応援や、Facebookの黎明期から情報発信して繋がった1,500人程のフォロワーが大きな支えになり、締切り1か月で目標である150万円を超える金額を集めました。しかも150万円集まらない場合はクラウドファンディングが不成立となるプランでした。
 クラウドファンディング資金を使って、びわカフェをオープンし、運営する林社長のパワーは凄いです。その販路は確実に広がっていきました。知多半島内の顧客7割(うち町内は1割)、名古屋、岐阜から3割、時々三重県や他県の来店もあります。びわカフェ以外の販路では、知多半島道路の阿久比と大府(上り)のサービスエリア、半田駅前の地元物産コーナーや通販で確実に固定客を掴んでいます。

◆どこに注目 びわカフェ

 びわカフェでは「びわ茶」の提供と同時に「びわ茶」の製造も行っています。製造の一部を近隣の就労継続支援施設にいる方にお願いしており、障がい者雇用の場にもなっています。他方、びわカフェは新製品アイデアの宝庫でもあります。
・仕入過ぎたびわ葉っぱから生まれた足湯
提携農家から持ち込まれた30kgのびわ葉を就労支援にいる方が洗って天日干し作業を終えた→せっかく仕事をしてくれたが、作業が追い付かず、渋みのあるびわ茶になってしまった→せっかくできたお茶を捨てられない→どうしよう、そうだ足湯で使おう!
・取れすぎたびわの実を一斗樽に漬込んでできた天然発酵枇杷酢
偶然、収穫が重なった。大量のびわの実が痛んでしまう→どうしよう、そうだ!カーマでコック付きバケツを購入してびわ漬けをしよう!→漬かる途中で下のコックをひねると濃厚なびわ酢が出てくる→この酢で色々な用途が生まれる。

◆どこに注目 びわ農家とのやりとり

 びわは逞しい生命力を持っています。土づくりや剪定など手をかけ行えば、無農薬で十分に生育することが出来ると林社長は確信しました。剪定で発生した葉がびわ茶、びわ石鹸に代わるため100%の資源活用です。当初、農家の対応は冷ややかでしたが、林社長が借りた200坪のびわ畑の出来栄えを見た農家も感心するようになり、林社長方式を真似る人たちも出るようになりました。
 農業をしている土地は先祖から受け継いだ物であり受け継がせたい。しかし、後継者がいない。そこで林社長に任せようという機運が生まれてきました。当初借りた200坪のびわ畑が5年で1,000坪に広がりました。任された畑の手入れとびわ茶、びわ石鹸製造が新たな雇用を生み出しました。

取材を終えて

 一般的にびわ葉からびわ茶を製造する際、びわ葉の裏にある産毛をブラシ等で擦って落とします。林社長は汚れを落とすため丁寧に水洗いするだけで終えます。この産毛にびわの効能や旨味が隠されているからです。これは林社長のこれまでの経験から生まれた処理方法です。
 林社長はパワフルな方です。取材の最後に1曲歌ってもよいですかと言ってオペラの一節を迫力あるソプラノ(女声の高い音域)で披露されました。実は中学校で音楽教師を務め、自宅での音楽教室をきっかけに声楽家として舞台に立つ方でした。びわ茶、びわ石鹸以外にもびわジャム、びわ化粧水、スムージードリンク(びわ茶と自家製ヨーグルトと果物を使った)などの商品開発に取り組んでいます。びわカフェに足を運ぶとびわの素晴らしさとびわ茶足湯を体験することができます。
 林社長は2023年8月に内海の海岸近くに宿泊できる飲食店を開業します。店名は「オーベルジュ ボワ エ メール」です。びわやびわ茶を使った料理でおもてなしします。びわ足湯につかり、びわ料理を体験し、良ければ店舗の上で泊まることが出来ます。これも地域雇用につながっています。

みなみちたフルーツ(びわカフェ) | LINE 公式アカウント
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みなみちたフルーツ(#びわカフェ)(@minamichita_fruit) • Instagram写真と動画
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