あいちの注目企業

2023.06.01
アクアビクスで職場や地域の健康づくりに貢献したい
FLAP株式会社
代表取締役 KOZUE
春日井市鳥居松町5丁目98番地

 アクアビクスとは、水中で行うエクササイズのことで、水の浮力や水圧の利用により身体への負荷を軽減しながらトレーニングができるといわれる。
 身体の重量が水の浮力によって支えられるため、関節にかかる負荷が軽減され、関節の可動域を広げる効果がある。また水の抵抗を利用することで、筋力を高めるだけでなく、陸上で行うエクササイズに比べて、同じ運動量で消費するカロリーも多いとされ、心拍数を上げることで有酸素運動効果による心肺機能の向上にも一役買う。水の中では、体温より水温が低く一定に保たれるため汗をかきにくく、アイシングともなるので運動後の負担も少ない。 アクアビクスを中心に水泳教室やヨガスタジオなどへの講師派遣、スポーツ関連企業でのインストラクター養成、企業での健康づくりアドバイザーなどの事業を行うのがFLAP株式会社のKOZUE氏である。

アクアビクスとの出会いは

 KOZUE氏は18歳の時名古屋で就職、24歳で結婚、専業主婦に。
 「ある日、近所で介護業務の初歩が学べる講座があるということをチラシで知ったのをきっかけに、自分もやってみようと施設へパート勤務することになりました。福祉施設では特殊介護と呼ばれる麻痺のある人や意思疎通が難しい人の入浴支援をする業務を担当することになりました。それまで知らなかったのですが、麻痺症状をお持ちの方の手の中は非常に衛生環境が悪く、手や指の可動域を拡げるために水の中でリハビリをすると大きく改善することを体験しました」。
 この機能改善の体験が水中運動への興味へと、そしてスポーツクラブでアクアビクスとの出会いにつながる。
 「通い始めたスポーツクラブのアクアビクスの先生の教え方がとてもうまく、アクアビクスをもっと知りたい、インストラクターになりたい、と先生に相談したら『やってみなよ』と快諾をいただくことができました」。

アクアビクスインストラクターへの道

 「運動としての技術はもちろんですが、解剖学などで痛みなどの不調が起きるメカニズムなど人体に関して深く学んでいきました。人間の体は多くの骨や筋肉で本当によくできているのですが、一旦ストレスがかかる場所ができ痛みなどが発生すると、痛みを感じる部分だけでなく周辺の大きい筋肉とつながっている部分も多く、関連する筋肉などについてもバランスを取りながら痛む場所のストレスを解消していく必要があります。しかし、陸上運動では重力がかかっているため思うような機能改善運動とはならないケースもあります。一方、アクアビクスでは浮力や360度からの水圧の力を利用でき、例えば膝などの関節が悪い人でも動かすのが楽になり可動域も広げられる上、水の中での有酸素運動をすることで心拍機能にも好影響があることがわかりました」。

アクアビクスインストラクターとして個人事業、そして会社設立へ

 2012年に福祉施設の職員として働く傍ら、インストラクターとして個人事業を始めることに。
 「どちらもやめたくなかったんですよね。福祉での学びが入口となってアクアビクスレッスンへとつながっていったこともあり、双方の理論や実践が生きた学びとなることも多く貴重な経験だと感じていました。いろいろな機会を得て行うレッスンの他、スポーツクラブ運営会社で働くインストラクターの方むけの技術向上アドバイザーなどを続けたのですが、3~4年目に体を壊して休養。福祉の仕事は続けられず、アクアビクスの専業になりました。今思うと体調を崩したのも予兆だったのかもしれません。その後、3度がんの宣告を受け、自分が動けなくても受講される方のためレッスンが継続できる仕組みを作っておかなければ、そのためには個人として仕事を受けるのではなく、会社として仕事を受け社員がレッスンを継続する体制が必要だと考えるようになりました。インストラクターの知人2人に声をかけ法人を2021年1月に設立、設立日に私は入院していましたがレッスンは続けることができ、私自身も手術後1ヶ月半で仕事に復帰をすることができました」。

コロナ禍だからこそ舞い込んだベトナムからのオファー

 「コロナによる外出自粛の影響は運動不足を、ひいては筋力低下・心肺機能の低下を招きました。そこで『心肺機能を鍛えて自分の体は自分で作ろう』と、自粛期間直後からレッスンを再開しました。弱った心肺機能を、水圧・水の抵抗・浮力・温度などの水の特徴を利用しながら陸上運動よりも負荷が少なく楽しんで心肺機能の向上を図ろう、コロナになりにくい体を自分で作ろうという活動を始めました」。
 外出控えによる心肺機能の低下は世界的にも共通の問題ともなった。
 そんな時、人づてにベトナム政府の関係者がアクアビクスインストラクターを探している、とオファーを受ける。
 「ベトナムの政府関係者からは『ベトナムでもコロナにより健康づくりに課題が出てきている。理論がしっかりした日本のアクアビクスをベトナムでも導入したい』というオファーでした。当時は渡航も難しい状況で、リモート会議で提案の説明・資料送付などを行ないました。コロナが落ち着いたらお願いします、と初めての海外でのお仕事が決まりました」。

初めての海外進出の頼れるアドバイザー

 「ベトナムでアクアビクスの仕事ができる、とはなったものの初めての外国の仕事でとても不安でした。そこで商工会議所に相談したところ、あいち産業振興機構の国際ビジネス支援を紹介されました。過剰な心配事にも丁寧に応えてもらい、その対応のアドバイスも得られました。コロナ明け、ようやくベトナムを訪れた際には現地のマスコミの取材を受け、講演会でも実技説明なども行い盛況なものとなりました。アクアビクスがベトナムという新しい地でより広く知られ、健康づくりのお手伝いができればと考えています」。

起き上がれなかった高齢者が趣味のパチンコへ歩いて通うまで

 アクアビクスインストラクターとして、また、福祉施設で介護現場に携わった人間としての知識と経験をもとにしたKOZUE氏だからこそできるアドバイスもある。

ベッドの隣の移動トイレにも行けない

 「実は今、86歳の方のパーソナルインストラクターを3年間続けています。きっかけは、アクアビクスの教室の生徒さんのお母様がトイレで転んで脊椎を骨折。起き上がれない状態になって困り果てている、とのことでした。昔、福祉施設で仕事をしていたこともあり、何かヒントになることでもあれば、とご相談されたのだと思います。ベッド隣の移動式トイレにすら自力で移動できない状態でしたので、まずは起き上がり方のレッスンから始めることになりました。衰えた筋肉もある中、まだ力の入る筋肉を押さえながら『ここの筋肉を意識して、こういう呼吸をして起き上がって』というところから始めました。訓練の甲斐あり、起き上がれるように、さらにはトイレにひとりで行けるようにも回復しましたが、この段階では要介護5でした。しかし食事もおいしくなり、体力も回復をし始めると、2か月で4点杖を使い、デイサービスに通えるようにもなっていきました。

トレーニングは目標と理論に基づいた体の使い方

 腰椎骨折の場合、回復後も歩き方が悪いとすり足になり再度の転倒となるケースもあり、足を上げての歩行を目指して下肢筋肉についても同様に『歩けるようにここの筋肉を意識してこういうトレーニングをして』とアドバイスをしました。ただ、トレーニングは大変ですのでやめてしまわないように目標を持ってもらうことにしました。趣味は?と伺うと『パチンコ』とのことで、『一人でパチンコへ行けるようになりましょうね』と目標をつくりました。

アクアビクスメソッドを活かしたリハビリで目標実現

 「ある程度体力がついた段階で、プールでマンツーマンでの水中歩行訓練を開始します。同時に水の中に台を沈めて転んだ時にとっさに手をつける訓練も行いました。高齢者の転倒時には顔や頭、肩から地面について大けがにつながるケースが多く、バランスを崩したときにはまず手をつく、ということの習慣づけをしていきました。ある程度歩けるようになった段階で、アクアビクスのメソッドを活かし水の掻き方を覚えてもらうと、やがて水を搔きながら走れるようにまでなりました。浮力があり腰の痛みも少なく、360度からの水圧により可動域も広がり体の柔軟性もでてきます。まさにこれは水の中でしかできない機能訓練です。これを始めたころから動きもしっかりし、念願のパチンコにも一人で行けるようになりました。お店では珍しいほどの高齢者のため、お店の人やお客さんからも声をかけられるようになり、新たなコミュニケーションの場を得て生活の張りにもなっているそうです。この方は水中歩行だけでは飽き足らず、水に顔もつけられなかったのに今ではバタ足で25mを泳ぎ切るまでになるなど意欲満々で生活をしていらっしゃいます」。
 健康維持だけでなくアクアビクスの可能性の拡がりを感じさせる。

様々な形で地域の健康づくりに貢献を

 当社の主力事業の一つがスポーツクラブへの講師派遣。様々な理由でオファーが舞い込む。
 「市内の公営スポーツクラブで運営委託を受けていた企業から『プールでの受講者が少なく何とか増やしていきたい。講師に来てくれないか』との依頼も来ました。講師に行くと水中ウォーキングの講習は3人。人数を増やすには見た目の派手さも必要だと考え、動きの見栄えのするヌードルと呼ばれる発泡スチロールでできた細長い棒状の浮き具を使用することにしました。背負ったりまたがったりすることで泳げない人も泳げる気分になれ、『バエる』レッスンもできます。プールに来て見ていた人も『あれは何?』『自分もやってみたい』と徐々に人数が増え、たくさんの方々に興味をもっていただき、参加者も満員状態になりました」。


 コロナ禍の前はスポーツクラブで講座を委託されることがほとんどだったが、ニーズも変わりつつあるとのこと。
 「民営のスポーツクラブは、コロナ禍となってから感染拡大を防止するため外部からの講師を入れず、自社内のスタッフでなんとかやりくりしてプログラム作りをしてきました。現状ではこうした動向に変化はなく、自社内のスタッフの養成に関するオファーが増えており、こうしたニーズに積極的に対応しています」。
 各市町村のスポーツ施設ではアクアビクスの他、子供水泳教育や機能改善訓練を行っており、子供から大人まで参加できるスタジオレッスンなども手掛けている。
 「従業員の健康維持・増進に積極的な企業様からは、運動教室などの福利厚生向け契約なども増えています。アクアビクスは水の中での運動のため、動きが遅れ気味になっても水中の動きは周りからは分からないので、エアロビクスで周りの動きについていけずに挫折した人でも始めやすいと思います。水中運動の様々な効果を含め、水の中は運動をあまりしてこなかった方にこそ優しい環境だと考えています。今後は、こうした運動を敬遠されてきたり、コロナの外出自粛で外出や運動から遠ざかってしまったり、という方々にもご参加いただくことで、地域の健康づくりやレッスンをきっかけとしたコミュニティづくり等、様々な形で関わっていければと考えています」。