あいちの注目企業

2023.04.01
航空業界を目指す人達の道標に
オフィス川口
代表 川口 晴美

 空港では様々な人が働く。大きくは接客対応と物流対応。キャビンアテンダントは接客対応の代表であるが、グランドスタッフは、チェックイン業務、搭乗・乗客案内、団体対応、空港での予約業務、ラウンジ対応など多くの地上での接客業務を連携的にオペレーションすることで、定刻通りの安全運航を実現する重要任務である。
 JAL国内便の名古屋初就航の第1期生として入社以来、グランドスタッフ業務に14年間関わり、現在ではグランドスタッフを目指す人達の就活を支援する個人スクールを主宰するのがオフィス川口の川口晴美氏である。

グランドスタッフとして14年勤務、「サービスの達人」としてJAL社長賞

 川口氏が航空業界に興味を持つようになったのは空港を訪れた時。
 「飛行機や働く人などかっこよくて独特の雰囲気があり、漠然とした憧れを持つようになりました。就職先を決める際には、改めて成田や羽田空港を訪れ『こういう世界で働いてみたい』と考えるようになりました」。
 JALは翌年の1986年に名古屋~福岡便を就航することを発表する。名古屋空港から初めての国内便であり、今後の他地方への名古屋便増発の展開を想定するJALにとっては意欲的に長く働くことができるスタッフの確保が必要とされた。
 川口氏は1986年4月名古屋空港JAL国内線の第1期としてJALスカイ名古屋(現在のドリームスカイ名古屋)に採用、飛行機の発着に関わるグランドスタッフとして働くこととなる。
 「1か月の研修の後、発着先の福岡空港で準備業務が始まりました。初めてのことばかりで大変でしたが、その経験から、それ以後新たな名古屋便の就航となるたびに準備業務を任され教官として派遣されることになりました。以後、教えることの適性を買われ、JAL本社の研修をはじめとして教育業務に携わる機会が増えました。羽田・成田・福岡等の拠点空港だけでなく、石垣島や宮古島などの地方管理空港、ハワイ・ホノルル空港へも教育・応援出張へと赴きました。準備応援ともなると1~2ヶ月間滞在することになるので、全国の空港の雰囲気を知ることができるとともに全国の空港に知り合いのネットワークができていきました」。
 グランドスタッフの仕事は、時に有名人やスポーツ選手等のVIPのアテンド姿などが映し出されることもあり、一見華やかに見られがちだが、飛行機を定刻で安全に出発させることが最大の使命。飛行機の発着時間に合わせて早番は朝5時から、遅番は飛行機の遅れなどで深夜におよぶこともある。トラブルや気象条件などで遅延や欠航になると業務の臨機応変な対応を求められる。
 「思い出深いのは、空港業務終了間際の時間に、ジャンボジェット機が羽田への着陸ができず名古屋空港へ代替着陸する事態となったときのことです。乗客は500人。この時間では人数分のホテルの確保は不可能でした。わずかな判断の躊躇が多くの乗客に負担をかける事態だと考えました。乗客の方々だけでも新幹線を使って東京へ送り届けられれば、自宅へ帰ったり宿泊予定のホテルへ到着できたりするのではないかと判断し、空港から名古屋駅への貸し切りバスを10台手配しました。手荷物を降ろすのを待っていては最終の新幹線に間に合わない時間でしたので、乗客の方には手荷物なしでバスに乗っていただき、スタッフが同乗、バスの中で移動中にそれぞれの方の住所を記録してもらい、宅配便で荷物をお送りすることにしました。並行して乗客数分の新幹線の座席の確保を行い、バス降車のタイミングで名古屋駅のJALスタッフが乗車券をお渡しできるよう手配し、なんとか東京へお送りすることができました。一方、空港では、スタッフが記録した住所へ宅配便で自宅や宿泊ホテルへ配送の手配を続け、明け方までの業務となりました」。
 1989年には社員間投票で「誰の接客を自分のモデルにしたいか」を決める「JALホスピタリティ賞」に、在籍300名の中から選出されるなど社内で高い評価を受ける。
 「まだ入社3年目でしたが選んでいただけたのはとてもうれしかったです。表に出る部分だけではなく、地道な裏方としての仕事を日頃から目にしている同僚から相互投票で評価されたことは、自分のその後のキャリアの起点にもなりました」。
 また、前便が遅れ、乗り継ぎが困難になった際にも他社の航空便を手配することでお客様の旅程への影響を最小限にするなど、幅広い人脈と臨機応変な対応力は利用客から多くのサンクスレターが届けられる。乗客や外部からも高く評価される対応力により、年1回全世界のJALグループから10人が選ばれる1996年「サービスの達人」のグランドスタッフ部門を受賞、JAL社長から表彰を受ける。

 「仕事はシフト勤務で大変なことも多いのですが、1機の飛行機をチームワークで送り出すということは大きなやりがいでした。空港自体が非日常空間で日々変化があり、楽しく14年間働きましたが子育てをきっかけに2001年に退職することになりました」と振り返る。

「教えること」の適性を活かし講師として実績

 その後は、子育ての合間に地域のコミュニティセンターでパソコン教室の講師をしたり、専門学校のエアライン講座のゲストスピーカーをしたりする形で教育事業に関わっていたが、2005年中部国際空港が開港したのをきっかけに、4月から専門学校でエアライン講座を受け持つことになる。
 「ゲストスピーカーをしてみて、グランドスタッフ時代の経験を形にして次の世代に伝えられるのは魅力的だと考え、本格的に講座を持ってみようと考えるようになったのです」。
 2013年からは大学で観光業界ゼミの一つである実践ホスピタリティ講座も開講、グランドスタッフのホスピタリティやサービス、仕事内容などを教える。
 「『実践』となっているように、ホスピタリティを『グランドスタッフの切り口』で学んでもらう内容となっています。グランドスタッフの実践する立ち方、歩き方に始まり、簡潔に伝わりやすいアナウンスの方法、ホスピタリティを強く意識したチェックインのロールプレイなど、多面的に学んでもらっています。エアライン業界はどんどん進化しているので、今の現場の実情合わせて授業内容のアップデートを続けています。また、空港見学も積極的に取り入れ、生の現場を見てもらうようにもしています。かつての同僚などを通じてのコンタクトも可能ですし、現場としても入社希望者の会社訪問でもあり、受け入れ体制を整えてもらえています」。

個人の適性に合わせた就活サポートを目指し、個人スクールを立ち上げ

 講座の受講者からは多くのCAやグランドスタッフを多数輩出したが、専門学校や大学の講座という枠組みではできない適性、得手不得手など個人の適性や進路希望にカスタマイズした航空業界への就職支援を実現させたいと2017年オフィス川口を創業。独自のエアライン就職講座を立ち上げることになる。
 スクールとしては①就活準備として大学1年~3年制向けコース、②本格的な就活対策として大学4年生向けコース③社会人で働きながら「航空業界で働きたい」との思いを持ち続ける人のための社会人向けコース、の3コースを用意。大手エアラインスクールは40~50回で30万円以上であるのに対して、当スクールは10回・43,000円から。 実はこの個人スクール、業界就職率が90%以上と大手エアラインスクールに引けを取らない「知る人ぞ知る」就職支援スクールで『川口さんの生徒さんであればぜひ入社してほしい』とも言われるほど信頼も厚い。

 「当スクールを利用される学生さんには航空業界で働くことの誇りとやりがいを持ち続けてほしいと考えています。しかし『業界の実情や職場の雰囲気、職務内容が自分の思い描いていたものと違っていた』と就職後まもなく離職される方も実は多くおられます。航空業界を目指す方の多くは大手スクールのエアライン講座を利用されるのですが、客室乗務員出身の講師が中心となった客室乗務員向けセミナーがメインとなっています。そのためグランドスタッフを目指す人にとっては、充分な職務内容の理解がないまま就職するため早期離職につながっているケースが多くあります。私はこの業界が大好きですのでこうした職場のミスマッチで挫折感を持ってほしくないのです。ですから、スクールの講座を通じて業界の実情や給料、勤務体系などをよくお話し、これから自分がどのような職に就こうとしているのかの確認をします。希望する職種や勤務地について学生さん個々の性格や能力などを踏まえ、この職種であればこの勤務地が向いているのではなどのアドバイスをしていきます。『こういう職種のこういう仕事をしたいのでこの語学をこれだけ勉強してきた』という方であれば、それが活用できる職場をアドバイスしますし、もう少し努力の必要があれば『現状であればこの職場が向いているのでは。ただ、こういう点をこの程度伸ばすことができれば希望の勤務地のこの職場でもマッチする』などお話し、就職先を絞り目指すことになります。全国各地にいる同僚や教え子などからは、この職場ではこういう人材が今求められているなどの情報も入ってきます。適正にあった職場であれば当然やりがいもあるでしょうし、ミスマッチも起こりません。企業側もやりがいをもって長期的に勤務するとなれば双方にとってメリットがあることになります。コロナにより職場がなくなった結果離職するということはありましたが、当スクールの学生さんでは、短くても1年半、ほとんどのケースは長期間離職することなく働き続けています。こうした実績もあって、業界からは当スクールには高い期待が寄せられています」。
 もちろん、就活対策としても充分なバックアップをしている。
 「世の中に流行があるように、航空業界の就職・面接でも評価が高くなる傾向のトレンドはあり、情報収集は欠かせません。エントリーシートの書き方や写真撮影などの対策は当然ですが、体の特徴が活かせるようなスーツやバッグ・靴の選び方に始まり、化粧品も例えばリップはどのメーカーの何番の色がいいといったことまで、好感を持たれる面接準備のバックアップをします。さらに、面接対策ではチームワークの適性を重視した質問など一般企業と異なる傾向にも対応しています。ただこれは、単に面接のために対策を練るという小手先の話ではなく、応募された学生さんが面接で普段通りの実力を発揮できるための『不安材料を極力減すためのバックアップ作戦』という感覚です。一過性の対策をすれば簡単に採用されるという甘い業界ではありませんから」と高い業界就職率の秘密の一端を教えてくれた。 最近では2022年12月HPを見て学生から「自分なりに準備はしてきたが、昔から憧れの地元の小牧空港で働きたい。残された時間も少ないがアドバイスが欲しい」と問い合わせがあり、2日間みっちり面接の想定問答対策などの手厚い対策をじっくり行い見事採用。この2月から小牧空港で働き始めた。

学校・企業から注目される航空業界のコミュニケーション技術

 航空業界では、飛行機の安全運航確保のためのスタッフ同士のコミュニケーションや乗客に向けてのホスピタリティが重要視されるが、こうした業界としては当たり前の方法や体験が一般企業にとっては新しい気付きとなることも多く、コミュニケーション技術やビジネスマナーに関するセミナーのオファーも多い。
 「高校・大学・専門学校でのコミュニケーション講座や面接対策講座のオファーの他、労働局では中堅社員向けビジネスマナーや職場の人間関係などのようなセミナーもしています。また一般企業でのコミュニケーションセミナーだけでなく、専門学校や大学では教師の方に向けて『どうやって学生と同じ目線づくりをするのか』という視点のコミュニケーションセミナーも行っています。航空業界では当たり前のことでも他の業界の方からは初めて聞く話が多くとても刺激になったという評価を頂く機会もあります」。
 2023年5月には新しい事業展開も予定している。
 「セントレアを会場に『セントレアへGO!』という講座を開催する予定です。今まではオファーがあり対応するセミナーを実施してきましたが、NHK文化センター様へ企画提案して実現したプログラムです。現役機長をお招きして話を伺ったり空港内の機内食工場で滑走路を間近に見ながらビジネスクラスのできたて機内食で昼食会をしたりしたいと考えています。コロナも一段落したことから旅ゴコロをくすぐり、少しでも旅行業界の後押しができればと考えています。機内食工場など普段は立ち入ることができない場所へ入ることができる貴重な機会になりますので、空港好きの方や旅行好きの方にはぜひご参加いただきたいですね」。