あいちの注目企業

2022.12.01
ミセヂカラ®でお客様に支持される繁盛店を
オフィスアールエス
 佐藤 玲子
春日井市町田町2-18-201

 VMD(ビジュアル・マーチャン・ダイジング)とは、「マーケティング戦略におけるマーチャンダイジング(商品政策や商品計画)を顧客に効果的に伝えるため、商品を効果的に陳列・演出・表現し、お客様に快適な買い物を提供する店づくり・売り場演出をすることにより企業やブランドの価値向上を実現する経営戦略活動の一つである(出典:日本ビジュアルマーチャンダイジング協会HPより)」とされる。 売り場を「スタッフが生き生き笑顔で活躍する場に、お客様がワクワク楽しく買い物をする場に」するため、VMDでミセヂカラ®【店×見せ×魅せ 力(ヂカラ)】を向上させ、店舗経営者の強い味方となっているのが「Office RS」代表の佐藤玲子氏である。

自分で決めた建築士への道

 佐藤氏は、高校進学時に高専の建築学科を選択、建築士を目指した。
 「父が建築士、母が洋裁を仕事にしていて無から物を作るという環境が身近にあったことも影響しているかもしれません。また、成績順にあなたはここを受験しなさいという進路指導への反発もあり、自分の考えで道を選択したくなりました」と振り返る。
 卒業後は、名古屋市内の設計事務所に就職。当時、学生は学校の推薦により大手ゼネコンや建材メーカーに就職することがほとんど。しかし、自分の道は自分で切り開くとばかりに、学校の講師に直談判し知り合いの設計事務所を紹介してもらった。
 設計事務所では、1F店舗、2・3Fがアパートといった店舗付き住宅の設計を2年半ぐらい担当。
 「事務所の所長からは『うちは7年勤めてくれれば独立を支援する方針だ』と言われてがんばったのですが、2年後に所長が病気で亡くなり、事務所も解散となってしまいました。目標を失う形で1年間ぐらいはアルバイトをしていましたが、結婚することになりました。25年専業主婦をしていましたが、上の子供が就職、下の子が高校を卒業する頃には自分の時間もゆとりができるようになりました。母が洋裁や編み物をしていたこともあって、自分でもいろいろなものを作ってはヤフオクやマルシェなどで販売し、材料代が稼げれば満足する日々を送っていました」。
 ところが、マルシェでは同じようなものを売っていても、たくさん人の集まるブースとそうでないブースがある。何か並べ方や見せ方に工夫があるのでは、と考えネットで調べたところ、VMDという「お客さんからどう見えるかという視点」を中心とした理論に出会うことになる。

衝撃のVMDとの出会い、ミセヂカラ®で創業

 「商品を魅力的に見せる陳列技術があると興味を持ち、さっそくオーバーリンク社が主催する東京の『売り場塾』に参加しました。ところが参加者は、スーパーの本社の研修担当、ハイブランドハイヤー、海外帰りのバイヤーなど大企業から派遣されていた人がほとんどで、場違いなところへきた、というのが率直な感想でした。全部で5回の講座でしたが、物足りないと感じて先生に相談したところ、近々名古屋の企業へコンサルに行くことになっているので見に来ないか、とお誘いいただきカバン持ちとしてついていけることになりました。仕事としてコンサルすることで人の役に立ってお金ももらえるというのは、材料代が稼げれば満足していた自分としては雷に打たれるような衝撃で、マルシェの陳列のことなどどこかへ忘れて積極的に勉強しました。後に『普通の主婦が受講し、後にコンサルになった人もいる』と塾で語り草になったそうです」。

 「VMDに関わる仕事がしたい」と考えていた頃、新聞に「商工会議所の創業塾受講生募集」の広告を目にする。5000円で学べることが分かり参加した。
 「創業塾では経営計画の立て方とともに、グループワークで『一人のビジネスモデルを皆で話しあう』というカリキュラムもありました。運よくそのケーススタディに選ばれたことで、グループの方からいろいろな意見をもらえ、その後の道筋になりました。さらに、創業塾に来られたゲストの方との出会いにより、あいち産業振興機構の『創業プラザあいち』を紹介され、参加することになりました」。
 創業プラザでは、無料の専門家のアドバイスや創業準備スペースの利用ができるようになる。利用を始めて1か月たった頃、「ビジネスプラン発表会」の誘いを受ける。
 「お誘いを受けた後、準備スペースの入居者の方々とお話をする中でてきたのが『ミセヂカラ®』という言葉でした。こうして『お店の力』『(効果的に)見せる力』と『(お客様を)魅せる力』という意味が込められたコピーができあがりました。発表会の前の2010年11月には開業届も提出し、100名ほどのゲストが来場する発表会も無事終えることができました。創業当時にはテレアポやチラシ配りもしましたが散々でした。メーカーや大企業に電話をしても受付止まりでしたし、チラシ配りを地下街で始めたら数件訪問したところで警備員さんが飛んできて止められました。でも創業したら50件はこうした飛び込み営業をしようと決めていましたので、半ば意地でやり通りました。見事に反応はありませんでしたが」と当時を思い出す。
 「ミセヂカラ®」については2013年に商標登録もした。
 「登録にあたっては、特許庁のHPで確認し他にないことから登録できそうだと考え、自分で申請書を作成、九段下の特許庁の出願受付に提出しに行きました。そこで赤ペンを入れてもらい出願を完了させました」。

VMDは科学。セオリーで顧客を店内へ

 ビジュアルが大きな要素となるVMDはセンスが要求されると思われがちだが「しっかりとした理論に基づく科学です」と佐藤代表は断言する。
 「確かにお店の店員さんが『こうするとより見栄えがよくなる、お客様の反応が良くなる』と気づくのは経験によるものが大きく、こうした積み重ねが『センス』とも呼ばれるものになるのかもしれません。ですから長年やっていればセンスはできると考えます。しかし、そのやり方を他の人に伝えようとしてもケースバイケースの対応になり、うまく伝えられないケースが多いと思います。その結果『センスのものだから教えられない、経験を積んでセンスを磨くしかない』となってしまいます。しかし、VMDは視覚的・心理的な効果が理論的に裏付けられた方法論なのです。私のセミナーに参加してくださった家具店の店長さんからは『自分が長年店づくりで行ってきたことをうまく部下に説明できなかったのですが、ようやく言葉に置き換えて説明できそうです』とおっしゃっていただきました。VMDを知っていただくと、こうした『経験知』や『暗黙知』を、理論として『形式知』として知っていただき、会社の共有財産として実践していただくことができます」。

 VMDの展開方法としては3つが基本。第一にはビジュアルプレゼンテーションとよばれる「店頭ディスプレイ」。自社が何を売ろうとしているのか、今何を売りたいのかを表現し、店頭から店内に顧客を誘導する役割を持つ。次にポイントプレゼンテーションとよばれる「店内ディスプレイ」。陳列棚上部やラック棚脇のマネキンなどでそれぞれの売り場コーナーに何がおいてあるかを知らせるインデックス的役割を持つ。最後はアイテムプレゼンテーションとよばれる「陳列」。商品を見やすく・わかりやすく分類・整理し、顧客が選びやすく手に取りやすくする役割を持つ。
 それぞれの基本ごとにセオリーがあり、目立たせ、顧客の目を引き、店内に誘導し商品を手に取らせる。

「もともと人通りのある大通りに面しているお店は、入口の作り方を変えるだけで入りやすくなります。入口のガラスドアにポスターなどが貼ってあるお店も多いのですが、はがして店の中が見えるようにするだけでも効果があります。店前の陳列も多すぎると『入るのを邪魔されている』という印象となってしまいます。導入部の陳列は、私は『じょうごの法則』と名付けましたが、じょうごの形状のように、手前を広くその先が狭くなるよう陳列を斜めに置くと、お客様は引き込まれるような印象で店内に入りやすくなります。店内でも来店客を誘導する方法があります。一般に、広い通路へと人は流れる傾向が強く、干渉を無意識に避けることからレジと反対方向へ進み、明るい方へと目が向くという傾向があります。こうした人間心理を利用して店舗内の動線を誘導し、その導線上で関連した商品群の売場のゾーニングをすることでお客様にとって買いやすく、店舗にとっても関連した商品のついで買いによる売上アップが期待できる売り場となります。また店内の滞留時間を長くする目的で、途中に平台などの什器を置き、ジグザグの動線を意識的に提案することもあります」。

VMDでもっと身近に売場づくりを

 VMDは単なる見せ方ではなく、お店や企業が持つ魅力を見極め、その魅力や情報を余すところなく伝える方法である。したがって、店舗だけでなく展示会で人を集める手法としても有効で、展示会セミナーなどの講師を務めることもある。
 「お店は車や歩きの人を対象にしているのに対して、展示会では短い時間で情報を得ようとしている人が来ています。情報収集が目的で足早に歩く人向けにどうアピールするかが大切となります。こうした場合には、一定距離があっても目に入りやすい垂直面の使い方が重要です。5m先から読めるような文字の大きさで、しかも人が1秒間に確認できる最大の文字数とされる13文字以内で伝えることが必要です。どんなことをしている会社かを興味を持ってもらえれば、社名や屋号はその後で覚えてもらえます。山椒ドレッシングをPRしたい企業からご相談を受けたときには、「山椒」と漢字で入り口壁面に大書きし、文字の形や色づかいで山椒のイメージが伝わるようにして、山椒のバイヤーの人にアピールすることを考えました」とその応用範囲も広い。

2021/12には「入りやすい 選びやすい 買いやすい 売場づくりの法則」を出版。

 「2019年の春に、創業プラザの知り合いで出版実績のある方から『出版会社の編集者が、名古屋で出版したい人の企画ミーティングを開催する。来てみないか』と誘われたことがきっかけでした。ダメ元でと企画を持っていったところ意外にも通ってしまい、こんなチャンスは滅多にないと一生懸命に原稿を作成し提出したところ、ほとんど手直しもなく出版の運びとなりました。後に、1回で企画が通ることや原稿の手直しがほとんどないことはとても珍しいことだと知りびっくりしました」。
 現在はコンサルやセミナー業務とともに、商工会議所などの専門家派遣の仕事もこなす。春日井・瀬戸・犬山・一宮・津島などの愛知県内の他、岐阜県・三重県の商工会議所、滋賀県の商工会議所連合会などで登録があり、小売店で身近で実践的なアドバイスをする。
 大掛かりな店舗改装だけでなく「このコーナーを強調するために余っているスタンドがあれば持ってきていただけませんか」「ここに茶箪笥などがあるとイメージが膨らむので、家の中でねむっているものがあれば利用したい」など、身近な備品・什器を活用したアドバイスも送る。

左:アドバイス前 右:アドバイス後

 「シャッター商店街」などと揶揄されることも多くなった商店街であるが、店舗を失った地域の住民は「買い物難民」となってしまうなど、地域の重要なコミュニティインフラであり、経済インフラであることには今も昔も変わりはない。佐藤代表のような「店舗の味方」が活躍することでお客様の「店舗の見方」が変わり、人とモノ、人と人、人と企業との出会いを作る「ミセヂカラ」が地域の活性化の大きな力となる。