あいちの注目企業

2022.10.03
人材確保で「清掃だけじゃない」多様な展開を目指せ
株式会社オーアンドケー
代表取締役 倉知 清和
愛知県名古屋市緑区平手南一丁目117番地

 2020年度の国内ビル管理市場は4兆2724億円(出典:「2021年度ビル管理市場の実態と展望(矢野経済研究所)」)と安定的な動向を見せているが、清掃などの環境衛生業務、設備管理業務、建物設備保全業務などを行うのに多くの規制や基準・必要資格などに対応していかなければならない。労働集約型の産業でありながら人材確保に大きな課題を抱える。公益社団法人全国ビルメンテナンス協会が会員企業に実施した調査(ビルメンテナンス情報年間2020)によると、経営課題として87.2%の企業が「現場従業員が集まりにくい」とするなど人手不足に大きな課題を抱え、解決の方策として「高齢者の採用(70.3%)」「既存従業員の知人、友人の紹介(56.5%)」としているが、その人手不足企業の多さから決定的な解決策を見いだせないでいる。
 こうした環境下でも、行動指針の「スピードは最大のサービス」をモットーに「困った」という連絡に素早く対応、正社員の1/3がパート経験者、旧従業員の復職や知人からの紹介で人材確保を着実に行い、321名の社員で清掃メンテナンス業務を拡大させているのが株式会社オーアンドケーである。 地域のスーパー・ホームセンターなどの商業施設を主力に病院、高齢者施設、宿泊施設など事業施設での清掃、床面ワックス・コーティング作業、エアコン清掃・交換、高所の屋上点検・窓清掃などの他、身近なマンションの清掃や植栽の剪定などのメンテナンス作業まで施設管理全般にわたり幅広く展開する。

新興商業地での商業施設向けメンテナンス業務を

 株式会社オーアンドケーは、1986年、現社長の倉知清和氏の伯父が経営する食品スーパーの子会社として設立された。当時名古屋市の緑区にはスーパーやディスカウントストア、ホームセンターなどがこぞって出店を始めた頃。スーパー経営の経験からこうした地元の商業施設向けのビルメンテナンス業務が増加すると考え、専門業務を請け負おうと考えた。伯父のスーパーで働いていた倉知氏が就任、その会社を任された。陳列ケースのメーカーで働いていた経験を活かし、通常は工期が1週間かかるところを2~3日で施工を完了させ、手際の良い業者として評判となり受注を増やしていった。新興商業地では商業施設向けメンテナンス会社が少なかったことから「施工後の清掃やメンテナンスもやれないか」という依頼が舞い込み始めた。当初は付帯サービス的な位置づけで対応していたが、粗利は低いものの安定的な受注が継続することから力を入れ始め、本業となっていった。

売上の15%を占める取引を終了させても多様な業界への展開を目指す

 「2000年に伯父が急死、いとこがスーパーを私が当社を引き継ぎ独立した会社となりました。順調に清掃メンテナンス業を拡大させ、ドラッグストアやスポーツ施設などを併設した複合性商業施設での仕事をいくつも手掛ける時期もありました。しかし、売上は増えたものの人件費や営業経費も大きく増え粗利率が大きく落ちてしまいました。売上の15%を占める大口取引先でしたが、やむを得ずお取引を終了することとなりました。結果、売上は減りましたが、営業車の売却など経費も大きく減らしたことから粗利益は大きく向上、経営的にも楽になりました。この時、単なる拡大を目指すのではなく、主力の流通・食品業界向け以外の業界への拡大の必要性を感じました」と当時を振り返る倉知社長。
 景気変動の影響を受けにくいのではと考えアプローチしたのが医療関連。しかし、大きな病院では「医療関連サービスマークを取得しているか」と聞かれるケースが多く、仕事につながるかどうか不確かであるのにハードルの高い認定を取得するべきか悩んでいた。「医療関連サービスマーク」とは、良質な医療関連サービスとして厚生労働省令に定める基準に適合したサービスを提供できる事業者を認定する制度で、病院向けサービスのISOとイメージすればわかりやすいかもしれない。
 「本格的に認定を取得し、病院での清掃事業へ取り組むことになったきっかけは、以前からエアコンクリーニングの仕事をいただいていた病院様から問い合わせがあったことでした。そこでは大手のビルメンテ会社にメンテナンス業務全般をご依頼されていたのですが、あまり営業の方が訪問されないようで、新しい業務を依頼しようとしても、作業をする現場のパートさんでは相談にならず困っておられました。これをチャンスと捉え、当社が対応するとともに認定取得にチャレンジすることとなりました。その病院様のご協力もあり医療関連サービスマークを取得、病院関連の仕事を増やすことになりました」。
 エアコン清掃から始まった病院清掃サービスは、車の清掃受注を皮切りに次々と拡大し、病室の日常的な設備メンテナンスまで広範囲の仕事を任されるまでになった。 「サービスマークの取得は、病院関連サービスを拡大するのに大きなきっかけとなりました。ただそのハードルは高く、例えば、パートでも病院内清掃を担当する人は健康診断の受診やインフルエンザ予防接種が義務化されるなど医療従事者と同じ基準にすることなどが求められます。ただ認定があることから独自性も高まります。県外からのオファーもあり、長野県の病院でのサービス展開も具体化しています」。

多様な独自性のあるサービスで提案力を向上

こうしたチャンスに巡り合ったのは単に幸運に恵まれただけではなく、エアコンクリーニングで行っていた独自の小さな工夫のおかげでもある。
 「エアコン清掃は外見から完了しているのかどうか非常に分かりづらく、お客様が簡単に確認できる方法があれば管理がしやすのではと考えました。そこで清掃完了後に清掃日等を記入したシールを添付し、清掃の完了の保証とお客様側からの確認を容易にする仕組みを導入しました。病院や商業施設などの大きな建物では数多くのエアコンがありますが、どれを清掃したのか管理が簡単になると評価をいただけるようになるなど、様々な取り組みを評価いただき、お声がけをいただけたようです」。
 主力の商業施設向け清掃メンテナンス業務でも独自性を発揮している。 「私自身が店舗什器会社に勤めていた経験があるので、清掃の勘所を知っています。例えば、冷蔵棚の清掃では、排水口が小さいため、ドロドロの水溶物やホコリがある状態で水を流すと詰まりやすくなります。そのため、まずバキュームを使用して吸い出した後、流水清掃をしなければなりません。商業施設の清掃は営業終了後の短い時間でしかできないため、このような掃除のノウハウが不足しているとつまらせたりして営業時間に間に合わないなどの最悪のトラブルも発生してしまいます。什器を熟知しているからこそできる清掃ノウハウも強みとなっています」。

 一方で、商業施設などでの床材がワックス不要のセラミックタイルが導入され始めるなどハード面でメンテナンスフリーをうたう設備も増えてきており、メンテナンス業務が減少するケースもでている。
 「こうした動向については、経営者としてしっかり兆候をとらえて取引関係が継続している間に新たな提案をしていかなければなりません。そのためにはサービスアイテムを多数持つことが非常に重要になります。異業種の動向にも敏感でいなければなりなせんので、展示会には数多く参加するようにしています。自社のPRだけでなく、他の出展企業との関係づくりの場ともなります。出展企業から逆営業されることもしばしばあり、新たな取引のチャンスと捉えています。例えば、メッセナゴヤに参加した時は、エアコン大手のダイキン社の方が来訪され、ビルメンテナンスについて連携をとりたいという話をいただいたのをきっかけに、エアコンの販売特約店としてのビジネス連携にまで発展しています」。
 この他、ファンヒーターやヒートポンプメーカーとして知られるコロナ社とは業務用加湿器のメンテナンス業務契約を結び、30台導入している高齢者施設などを始めとして衛生的で安定的な施設運営に寄与している。また、床材や清掃用具メーカーのミヅシマ工業とは玄関マット等のメンテナンス業務を担い、施設の安全性向上のため段差の解消などの工事提案と併せ、業務用マットなどの提案や定期的な取替を行う。
 こうした多様な提案のための取り組みは自社だけではない。 「当社のいろいろな業務提案は自社の力だけでできるものではありません。25社ある協力会社様の現場対応力や提案力あってものです。協力会社様とは共同で、機械メーカーやワックスの新製品情報など新しい情報を共有するための会議を定期的に開催しています。こうした取り組みがグループ全体での対応力の向上につながっていることから、今後も続けていきたいと考えています」。

積極的な正社員化と健康管理、従業員との関係強化で働きやすい環境づくり

 清掃メンテナンス業務のような労働集約型産業は人材が資本。「健康優良法人2022」や愛知県の「輝き女性カンパニー」などの取得を通じて働きやすく続けやすい職場づくりを目指している。
 特にパートから正社員への採用などのより安定的な雇用の実現を目指している。
 「当社の正社員の1/3はパート経験者です。パートの方の中でも労働時間や年収の制約から、あえて正社員にならない人材も多数いらっしゃいます。10代から80代まで幅広い年齢層の方がおられ、勤続の長い人もおられます。そのため勤続5年毎に、名札の色を変えたバッジを作ったり、ささやかながらも商品券をお渡ししたりしています。こうした働きやすい環境づくり、やりがいのある環境づくりを進めた結果、古くから働いている方から新しい人材をご紹介いただけたり、その方にも長く働いていただけたりと、よい循環ができつつあり、結果として離職率下げる効果もでています」。
 会社のことを従業員の人に知ってもらおうと始めた社内報「VOICE」は今年の10月で100号を数える。
 「始めた当初は、幹部も『なぜ社内報を?』という雰囲気で、第1号はA4表裏の1枚のものでした。さらにそれを毎月やろうと言い出したためスタッフは大いに戸惑っていたようです。時間を経て定着し始めるとA3・2つ折りの4ページになり、今ではさらにA4裏表が加わった6ページになりました。本社から遠い様々な現場があり、例えば名古屋空港ビルディングでは64名が働いています。勤務地に近い地域の人を採用していますので、そうした方々は本社へ立ち寄ることはほとんどなく、担当以外の経営スタッフの顔を見ることもありません。しかし『VOICE』では毎号顔写真がでますので、現地に私が行くと知人のように声をかけられることもしばしばあり、風通しの良い社風づくりの力にはなっているようです。社員はもちろんですが退職された方にもお送りし、会社を長く見守っていただいています。子育てや介護など家庭の事情で辞める人もおられますが、会社のことを継続的にお知らせすることで事情が許す段階になると当社への復職をお決めいただくきっかけにもなっているようです。今では、人と人とを、人と会社とをつなぐための大切な位置づけとなっています」。

 人材が資本であるだけに、健康管理にも気を使う。
 「多様な年齢層の方に働いていただいていますが、60代以上が6割以上を占める職場であり、離れた職場も多いことから健康維持状態の把握にも気を使います。その一環として、愛知県が作った『あいち健康プラス』という企業単位で移動の歩数を管理できるアプリを活用しています。歩数の減少は健康への影響が考えられるため、変化が大きい方には管理スタッフが多く声がけを多くするなど健康状況の把握に努めています。私は、当社のような清掃メンテナンス産業は、今後、『高齢者の基幹産業』となっていくのではと考えています。そのために、『風通しの良い働きやすい職場が当たり前』である産業となるような取り組みを今後も続けていきたいと考えています」と将来の清掃メンテナンス産業の姿を見据える。