あいちの注目企業

2022.09.01
社員一人ひとりに考える機会を提供し、大事な想いを託される会社へ
側島製罐株式会社
 石川 貴也
愛知県海部郡大治町西條附田90-1

会社の沿革

 側島製罐株式会社(以下:側島製罐)は1906年4月創業の缶メーカーです。今年で117年目になります。事業内容は、スチール缶の製造・販売、その他容器の販売、各種プレス加工です。
 創業時はブリキ板加工です。明治から大正時代には養蚕業関連の器具を作っていて、蚕の孵化装置や蚕を育てるための暖房器具、毛羽取り機などでブリキ板が使われていました。その後はスチール缶製造の専門の会社となりました。
 戦前は陸軍糧秣廠※1の指定工場としての乾パンの缶や航空機部品の製造を行い、戦後は主に乾物・菓子類等の容器を製造しています。

※1 陸軍糧秣廠(りくぐんりょうまつしょう)
旧日本陸軍で、糧秣品の調達、製造、貯蔵および補給などを行なった機関です。

どこに注目

 2020年に代表取締役社長 石川浩章氏(以下:石川社長)のご子息である石川貴也さん(以下:石川さん)が後継者として戻ってきました。事業承継の2年間に注目します。
 石川さんは大学卒業後、日本政策金融公庫に就職しました。日本政策金融公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完するため、国民一般向け事業、農林水産業者向け事業、中小企業事業者向け事業、危機対応等円滑化業務を行う政策金融機関です。公庫の現場で10年程経過したのちに内閣官房へ出向しました。ここで担当したのが内閣府「プロフェッショナル人材事業※2」です。
 人材事業の運用立上げと金融班として公庫現場の知識と知恵を活かしました。出向先でもやりがいがあり充実した中で、35歳の時に事業承継を自ら実践するために側島製罐に転職しました。 石川さんは取材中に「自己欺瞞」というフレーズをよく使われました。自分を育てくれた側島製罐に戻らず今の仕事を続けることが正しいのか、相当迷われたからこそ発せられた言葉と思います。

※2 プロフェッショナル人材事業
 各道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点を設置し、地域の関係機関等と連携しながら、地域企業の「攻めの経営」への転身を後押しするとともに、それを実践していくプロフェッショナル人材の活用について、経営者の意欲を喚起し、民間人材ビジネス事業者等を通じてマッチングの実現をサポートします。
 プロフェッショナル人材戦略マネージャーをはじめとした拠点のスタッフは、金融機関等と連携しつつ、地域企業の経営者と丁寧な対話を重ね、新事業や新販路の開拓など、積極的な「攻めの経営」への転換を促していきます。それを実践するプロフェッショナル人材のニーズを掘り起こし、民間人材ビジネス事業者や拠点とパートナーシップを結ぶ都市部大企業等に取り繋ぎ地方への人材還流を図ります。 さらに、人材のマッチング後においても、関係機関と協力し、当該企業の経営課題の解決や、成長戦略の実現などに向けて、フォローアップを行います。
出所:https://www.pro-jinzai.go.jp/

事業承継に注目 平社員の肩書

 2020年6代目として入社されました。一般的に十分なキャリアがあれば、役職などの肩書を付けるものと考えます。ところが平社員の肩書でスタートしました。製造工程を理解するためには他社の製造現場で1年間働くことからのスタートです。製造現場を知ることの大切さもあります。それ以上に平社員ならどこへも構えずに顔を出せる考えがありました。
  ちなみに、取材にて名刺交換しましたが現在も肩書は何もありません。

事業承継に注目 父親の意識改革

 以下の内容は石川さんの「note」に掲載されている原文です。 

事業承継で父親と交わした念書について
僕は2020年4月に家業である側島製罐に帰ってきましたが、実は帰ってくる前に社長である父親と”念書的なもの”の取り交わしをしました。最近色んな所でお話しする中でこの内容について聞かれることが多くなってきたので、どんなものだったのか記しておきたいと思います。

「note」掲載原文より

 念書といいながら手紙です。父親である石川社長をリスペクトしながら石川さんの目線で価値観を合わせたい願いとと石川さんの覚悟の手紙です。「4つのお願いしたいこと」と「3つの絶対にやめてほしいこと」の構成です。 経営が間違っているから売上が激減している、トップダウンの経営だから人材が育っていないなど石川社長を批判する手紙ではありません。取材時間に限りがあるため、石川社長へのヒアリングが叶いませんでした。取材ができたらどのフレーズが石川社長の琴線に響いたのかお聞ききしたかったです。

事業承継に注目 社員の意識改革その1

・10年前のパソコンを使っているため処理スピードが遅い。
・手書き文化が幅を利かせているため、フォーマットがバラバラの見積書。
・パソコンの前に座っているなら外へ行けの社風。
・典型的な受注生産体質の会社。
 パソコンの買い替えとともに「チャットツールの導入」「グループウェアの統一」「クラウド化」「バックオフィス強化」を行いました。特にバックオフィスは『人材』『商品』『情報』など、企業活動の根幹といえるものを管理しています。これらを整備した後がDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進になります。
 これら以外にもガントチャート図を使っての生産予定表の掲示、営業に目標管理制度の導入(それまでは見積もりフォーマットがバラバラ、営業の利益率もバラバラ、そのため赤字受注に違和感を持たないなどがありました)、副業人材の採用(商品開発に社外の副業人材を活用しましたが社内の対応スキル不足から頓挫しました)などを行いました。

事業承継に注目 社員の意識改革その2

 上述の意識改革はカイゼン活動であり、カイゼンはパッチワークであり変革とは異なります。そのため約1年という長い時間をかけてMission Vision Value(以下「MVV」という)を策定しました。
 創業115年の老舗製缶メーカーですがこれまで一度も「理念」どころか「社是」のようなものすら作っていなかったようです。石川さんが入社したときの売上は最盛期の三分の一、会社は空中分解の状態でした。ここからスタートして社員を巻き込みMVVを完成させるまでには相当の苦労がありました。
 名古屋市のデザイン会社である株式会社エスケイワード(以下:SKword)が企画したデザイン経営に関するセミナーに参加し、そこで世の中にはMission Vision Valueという経営理念的なものを体系的にまとめた理論があることを初めて知りました。そしてMVVを作成して第三者に説明したが自分の言葉で上手く説明できません。しかし、早急に始める必要があります。そのため年始にMVVを示すことに注力するのでなく、なぜMVVが必要なのか、自分達の現状況を知り、今後どうすべきなのかをみんなと一緒に考える会にシフトチェンジしました。
 年始の会議で石川さんは「自分は今までMVV策定はおろか、言葉のデザインも、プロジェクトマネージャーすらやったことがなく、あらゆる面で素人である」ことに気付きました。ここがターニングポイントです。石川さんの勉強と社員を巻き込むプロジェクトが動き出しました。以下は時間を費やしてメンバー全員で考えた言葉から生まれたMVVです。

Mission:世界にcanを
 缶は、防湿性や遮光性などから大切なものを守ることに特化しています。大切なものには、大切な想いが宿るものです。戦争に行く人の無事を祈る想い、愛や感謝を伝えたいという想い、自分の宝物を大事にしたいという想い。私たちはそんな想いに応え、守るために”can”をつくり続けています。それは、これからどれだけ世界が変わっても、絶対に変わらない私たちの存在意義だと信じています。

Vision :宝物を託される人になろう
 缶は人の想いを預かる器です。お客様の大事な商品だったり、誰かの想い出の品だったり、缶の中には色んな人の想いが詰まっています。だから私たちは、大事な想いを預かる人として、ふさわしい行動を約束します。ベストパートナーとして大事な想いを安心して託していただけるような、そんな会社を全員で目指し続けます。

Value 各フレーズの後には10の具体的行動内容が記載されています。
(1)歴史を超える価値をつくろう 
(2)自分の言葉で熱く語ろう
(3)まっすぐやろう
(4)高め合うために分かち合おう
(5)笑顔に全力でコミットしよう

斬新なホームページ

 MVVを掲げ、この中にSOBAJIMA book PDFがあります。B5サイズ半分の紙面ですがカラー14ページにMVVの説明がされています。これ以外に「ドローン映像で工場見学」の動画は斬新です。コンテストで審査員特別賞を受賞しています。

ヒット商品

 新商品「Sotto」は多数のご注文を頂きました。中京テレビの取材も頂きました。A4サイズのクリアファイルが収まるサイズです。ここに人気の秘密があります。大人から子供まで大切なものを入れたくなります。
 キャラクターではふなっしーとのコラボの缶製品もあり、通常缶メーカーの名前が製品情報に掲載されることはありませんが、こちらの商品では缶の裏に「製造元:側島製罐(株)、販売元(株)日本テレビサービス」と記載があり、側島製罐という会社がブランドとして認められていることを示しています。

情報提供

 通販部門
https://sobajima.thebase.in/
 セミナー動画

 MVV策定の支援をしてくださったSKwordさんとの共催セミナー動画があります。 実際の社員とのやり取りを含めてMVVを作り上げた石川さんの説明があります。
 内閣府「プロフェッショナル人材戦略事業」のポータルサイト
https://www.pro-jinzai.go.jp/
 愛知県プロフェッショナル人材戦略拠点
https://www.aibsc.jp/supports/aichi_prefecture_professional_human_resources_strategy_center