あいちの注目企業

2022.04.01
従来の仕事の枠をはみだし、相談できる「パートナー企業」を目指せ
有限会社 生川製作所
代表取締役 生川 友和
愛知県江南市小郷町楽ノ山108-1

ゼロ戦板金技師の祖父と溶接職人の父が自宅裏庭で創業

 有限会社生川製作所は、1966年にゼロ戦板金技師である祖父生川二郎氏が退職となったことを期に、溶接職人であった父裕一氏が独立・創業したことに始まる。創業当初は自宅の裏庭に6畳ほどの作業場を作り、溶接機1台で工作機関連の仕事を受注していた。1980年に法人化、1987年には現在地に自社工場を設立する。この時、レーザーとタレットパンチプレスの複合機を導入し、その後は多品種少量生産の工作設備部品を主力製品に業容を拡大させていった。現在は、自動車産業向けの設備用部品や工作機械のカバーなど板金加工の他、製缶加工品や設備用のコンベアフレームなど鉄やステンレスを材料とした多品種小ロットを得意として生産している。

自らの可能性を求めた後継者

 現社長の友和氏が入社したのは2014年。
 「小さい頃は跡を継ぐように言われ、低学年の頃から工場に入って曲げ加工の手伝いなどを見様見真似でしていました。しかし、大きくなってくると『敷かれたレールに乗るのは先が決まっていておもしろくない』と考えるようになり、他の可能性はないかと考えるようになりました。ただ、ものづくりは好きでしたので板金メーカーへ就職後も、仲間とエコラン(省燃費競技、省エネカーレース)に出場するなどしていました。10年勤めた後、新たな可能性を求めてワーキングホリデー制度により海外留学、帰国後はパチンコ台の設計で実績を上げ『生川さんが担当してくれるなら仕事の依頼をしたい』など指名をいただけるようになりました。『敷かれたレールは嫌だが、ものづくりには関わっていたい』という気持ちを察してくれたのでしょうか、2014年に父親から『今は板金業だがやりたいことがあれば変えてもいいよ』と言われ、自分や会社の新たな可能性が探れるのではないかと入社することになりました」と当時を振り返る生川社長。

現場の力を信じ、無理と言われるのを承知で難しいオーダーを受注

 2019年の社長就任後は自社の技術ポテンシャルを活用するための改革を始める。
 「それまでは安定的に受注をいただいていたことに慣れてしまっており、経験の範疇内でできるものだけのオーダーをいただいていました。しかしある種『手慣れた技術』でどの企業でも受注できるものばかりになってしまい、価格競争から収益性としては思わしくありませんでした。社長就任時には入社後5年経っており、自社の技術ポテンシャルから考えても、もっといろいろな仕事がやれるはずだという手応えは持っていましたので、あえて他社が手を出したがらない難しいオーダーを積極的に受けることにしました。当初は、現場から『こんなオーダー無理だ、社長は何でこんな難しいものを受けてくるんだ。時間ばかりかかって割に合わないじゃないか』と悲鳴が上がり、納品もお客様からはNG連発、片道45分の納品を3往復したこともありました」。 しかし、1年かけノークレームを実現、取引先からも高い評価を得られ、新たな関連受注にも成功するなど成果を上げている。
 現場が有していたポテンシャルも開花し、今では2500mmの工作機カバーを±1mmの精度で仕上げる板金・溶接技術を有するまでになった。

 「ノークレームとなるまでは1年かかりました。しかし、この取組を通じてお取引先からは『生川は弱音を吐かないから』というご評価をいただくまでになりました。過去を振り返ると『これぐらいでいいでしょ?勘弁してよ』と自社の限界を勝手に決めていたように思います。お取引先ではもともとそれぐらいの精度を出す技があり、発注先の精度要求を社内で改善していたようです。しかし生産性が悪く、同様の力量を持つ企業を探していたようで、今では従来ではいただけなかった仕事もご発注いただけるまでになりました」。

技術と技能の融合でレベルの高いエンジニアリング集団に

 こうした技術レベルを全社で高めるための取り組みとして「技術と技能の融合と共有」を目指している。
 「ベテランの職人は『技術は見て覚えろ』と言われて経験の中から技能を身につけてきた世代です。技能も経験値も高く『勘どころ』もわかっているものの、下の世代に伝えようとすると自分がやってきたように『見て覚える』という一択になってしまいます。一方、技術は理論が裏付けされた広く共有化された知識です。そこで、技能を理論付け、技術と融合することで共有化をしたいと考えています。例えば、溶接では理論値として入熱量が決められていて、それよりも過大に熱を加えると材料の組成が弱くなり、少ないと溶け込み不足などの溶接不良につながります。また、溶接後一定温度以下になるのを待たず溶接を続けると、母材の強度が低下するというパス間温度という設定もあります。これら技術的な理論上の制約条件をクリアしながらいかに効率的に短時間で確実な溶接をしていくか、ということが現場で求められる技能になります。溶接は端から順番にやっていけばよいというわけではなく、溶接する順番を組み立て、特に長尺の場合は変形なども発生しやすくなるので仮付などを含めた溶接順序により過大な入熱量と変形とを防ぐことも考えねばなりません。技能を持つ熟練の職人は、経験の中からこれらを感覚的に見抜き溶接していきます。こうした技能を技術の裏付けをしながら『なぜそうするとうまくいくのか、どうやったらノウハウとして共有できるのか』など、全体の技術レベルの向上を図る取り組みを進めています」。
 こうした現場力があるからこそ、あえて図面通りには作らないケースもあるとのこと。
 「図面の指示通りに作るだけであれば、我々は単なる『下請け仕事』で終わってしまいます。しかし当社では、そのプロダクトがどのように使われどのような機能を求められているのか、という最終形態を工程作業者が把握し、この図面は製品としてよいのかを検討します。つまり、図面通りにさえ仕上げれば良いという『部分最適』だけに留まることなく、それがどのように機能するのか、このプロダクトはどうあるべき部品なのかを検討し、求められる機能として問題のない『全体最適』が実現できる加工方法を考えるのです。設計者は意外と現場の製造工程を想定していないことが多く、図面を見てこの部品のこの箇所には結構大きな負荷がかかるから特に指示はないけれど溶接強度を上げる必要性があるな、などを判断し発注元とご相談して加工していきます。また、図面通りの形状では加工工程が多くなり、単価や納期に対応できないということであれば、こういう形状や加工方法はどうだろう、などというご提案もし、作り方を変えて短納期を実現させるというお手伝いもしています。『下請け』としてオーダーを確実に納品するという従来の枠からはみだし、提案ができ相談もしてもらえる『パートナー企業』でありたいと考えています」。

従来の思い込みからはみ出るための「鉄×(テツカケル)」プロジェクト

 事業分野でも従来の産業機械分野の「枠からはみ出る」取り組みとして社長就任の2019年から始めたのが「鉄×(テツカケル)」。

 今まで取り組んだことがない業種・スタイルと掛け合わせることで鉄工所の新たな可能性を見出そうとする取り組みである。
 「仕事の中で、日常生活の中で、頑丈さや重さが必要になるもの、独自の形状・デザインのものが欲しくなることは意外とあるのではないでしょうか。ただ、それをどこに頼んだらいいのかわからずそのままになっている、あるいは代替品で何とか工面しているというケースがほとんどではないでしょうか。こうした時に『鉄工所に直接注文してください、相談に乗りますよ』というのがこの取組です。鉄に掛け合わせる相手はいろいろな可能性を持っています。一品ものの治具や特殊配管用のダクト類、設備部品などのファクトリー(工場)スタイルであったり、お店で使うショーケースや看板、個人宅の表札・サインポールといったライフスタイルであったり。やりたいことやこういうものがあったらいいなと思うこと、使っていた部品や設備が壊れたので至急代替となる部品などがほしいなどといった場合、簡単な漫画絵やイメージ図でも構わないので教えていただければ、その利用シーンに合った形状や強度、デザイン性などの具体化を当社でご提案します。従来の鉄工所ではあまり対応してこなかったこうしたご相談にも『枠をはみ出して』対応していこうという取り組みです。従来と同じような生産設備向け部材ばかりを作り続けていると、新たな発想が乏しくなってしまいますし、個人や店舗向けなど高い意匠性の実現など従来とは異なる角度でのスキルの活用を工夫することで本業の腕も上げることができます。『鉄工所の新たな活用法』あるいは『鉄工所との新たな関わり方の発見』などにつなげていきたいと思っています」。
 これまでにも店舗リノベーション時に店舗設計に合わせた寸法のパン・バケット棚を至急作って欲しいという店舗什器店からのオーダーや古民家を改造した店舗にマッチし季節によっても取り替えられるようなスタンド看板のオーダー、新築祝いに送る個人宅のおしゃれなデザインの名入サインポールのオーダーなど、様々な「鉄×」が生み出されている。

 2020年には「鉄×生川製作所」として自社製品の開発プロジェクトを立ち上げた。 時折しもコロナ禍真っ只中、ショッピングセンターには足踏み式の消毒液スタンドが多く設置されていた。消毒用アルコールの品薄状況もあり使用頻度は高く、液が出にくくなっていたり傾いたりしているスタンドも散見されていた。
 そこで、デザイン性に配慮した安定した板金加工技術によるスタンドの開発に着手する。
 「開発を始めたのは2020年夏ごろでした。社員に製品開発を体験してほしいと考え、時間がかかっても全社で取り組むことにしました。入社したての若手から70代の職人まで全社員でアイデア出しを行ない、形になったのがオール板金加工の頑丈な足踏み式の消毒液スタンドでした。女性社員からは足の踏み板を大きくし右足でも左足でも利き足を選ばず使えないかという案もでました。しかし踏み板を大きくすると多くの方向から踏まれることが想定され、安定性も格段に向上させなければなりません。そこで重心を下から1/3以内に抑えた安定設計にしました。その結果、このポンプの納品時にはトラックで立てたまま運んでも一度も倒れない『納品しやすい』製品ともなりました。足踏み式の消毒液スタンド『ふみふみくん』というネーミングでトータル100台、名古屋市役所、一宮市役所、江南市役所、介護施設等で使ってもらっていますが、頑丈で納品後に壊れたという話は一台も届いていません」。

 モノづくりのプロが自社技術を駆使して「くだらなくて笑えてしまう一品」を本気で製作するコンテスト『くだらないものグランプリ』にも2年連続で参加している。
 「最初は会社の宣伝にでもなればと始めたのですが、自分たちができる技術を詰め込んで発表することから学びの場になっています。『くだらないもの』という縛り以外は全て何を作ろうと自由で、自社製品開発で求められる『売れるもの』という縛りからも開放されます。図面をいただいてからの仕事に慣れているため、逆に『自由な発想で』となっても何を作るのかは毎年悩まされています。しかし自由な発想から生まれるプロダクトの製造は、従来のオーダーにはなかったような動作をさせるケースも多く、それをどのように機構として落とし込み加工していくのかを考えることが不可欠となることから、新たな視点でのものづくりができ大変勉強になります」。
 枠をはみ出し目指すのは「工場を持つエンジニアリング集団」にすること。
 「ナルカワって他と違うよね、キラッと光るものがあるよね、という会社にしていきたいと考えています。そのためには現場力を高め、ものづくりパートナーとして知恵や提案力で仕事をいただけるような、製造現場を持つエンジニアリング集団となるよう目指していきたいと考えています」。
 目指す「鉄工所の枠からはみ出る」、実現する日も遠くはない。