技術の広場

2022.07.01
繊維製品中の異物分析について
あいち産業科学技術総合センター 尾張繊維技術センター
一宮市大和町馬引字宮浦35

1.はじめに

 当センターには、技術相談の一つとして、繊維製品中の異物についての相談が多く寄せられます。本記事では、異物分析の流れと繊維製品中の異物の分析事例について紹介します。

2.異物分析の流れ

 異物分析では、まず、異物を顕微鏡で拡大観察し、形状や形態などを確認します。次に、簡便・迅速で再現性に優れた、赤外分光分析とX線分光分析を組み合わせて、化合物情報と元素情報を得ています。異物の大きさが、数百μm以上(目で見える程度の大きさ)の場合は、フーリエ変換型赤外分光光度計/1回反射型減衰全反射測定装置(FTIR/ATR)とエネルギー分散型X線分光分析装置(EDX)を、数百μm以下の場合は、赤外顕微鏡付きFTIR(顕微FTIR)とEDX付き低真空走査型電子顕微鏡(低真空SEM-EDX)を使用しています。

3.異物の分析事例

 羊毛繊維中の混入異物でよく見られる相談事例を2つ紹介します。

3-1.羊毛繊維中の混入異物(1)

 顕微鏡観察では、羊毛繊維中には薄黄色の微小片が認められ、顕微FTIR分析では、タンパク質のスペクトルが得られました(図1)。そして、低真空SEM-EDX分析では、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、及び硫黄(S)が検出されました(図2)。これらのことから、混入異物は、タンパク質(ケラチン)で、羊の皮膚片と推定されました(なお、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)の検出は、土に由来すると考えられます)。羊毛を刈り取るとき、誤って皮膚とともに切り取った皮付き羊毛が混入することがあります。皮は紡績工程で粉砕されますが、細片が残るので、染色した場合には汚点の原因となることがあります。

図1 羊毛繊維中の混入異物と顕微FTIRスペクトル
図2 混入異物の低真空SEM観察とSEM-EDXスペクトル

3-2.羊毛繊維中の混入異物(2)

 顕微鏡観察では、トゲのある特徴的な形態が認められ、FTIR/ATR分析では、セルロースのスペクトルが得られました(図3)。これらのことから、混入異物はバー(イガのある草の実)で、羊毛繊維の植物質夾雑物の標準見本(JIS L1081 羊毛繊維試験方法)から、トレフォイルバーと推定されました。羊の飼料であるトレフォイルは、クローバーの類に属する植物で、1本の草に数百の実をつけます。バーは、放牧中に羊毛に付きやすく、紡績工程で取り除かれないと、製品の品質を損なう原因となることがあります。

図3 羊毛繊維中の混入異物とFTIR/ATRスペクトル

4.おわりに

 繊維製品中の異物分析では、紹介した事例のほかに検反(生地の検査)で見つかった金属片の同定も多く相談を受けています。また、繊維製品中の異物だけでなく、食品やプラスチック製品中の異物、特に繊維状の異物についての相談が多く寄せられます。繊維状の異物は、ほとんどの場合、顕微鏡観察で、毛かそれ以外の繊維かを判別できます。今後も、当センターでは、異物の分析事例の蓄積を継続して行い、異物の分析技術を充実させていきたいと考えています。